依然として厳しい残暑が続いていますが、山の景色は着実に秋へと向かっています。いつの間にか渓流釣りのシーズンも後半に突入していることに気がつきました。
渓流の釣りでは“尺”が、ひとつの目安となっています。大きさがすべてではないのですが、尺(30.3cm)を超える魚が釣れるとつい嬉しくなってしまうのは否めません。過去に何度も尺上が釣れた実績がある馴染みの渓へと向かいました。
■咲き誇る葛、萩の花…… 秋の気配が漂う渓へ
この日入渓したのは新潟県境にほど近い長野県北西部、標高800m付近。山仕事の関係もあり、筆者は一年を通して足繁く通っている場所です。
朝9時過ぎ。気温は25℃、水温は16.1℃。初夏には冷え込んだ日が続いてタニウツギがずいぶんと長く花を咲かせていました。季節は移ろい、今度は葛や萩が赤紫の花を咲かせています。夏もそろそろ終わりでしょうか。匂いたつ葛の花の芳醇な香り。ミンミンゼミが鳴いていますが、どこか勢いがないような……。路傍のススキの穂もずいぶんと伸びていて、秋の気配を感じずにはいられません。
しばらくまとまった雨が降っておらず渇水気味だった渓ですが、釣行の2日前に20数mm降ってくれたおかげで水位が戻っていました。やや濁りが残っていますが、きっと魚たちの活性が上がっているだろうと期待に胸が高まります。
入渓してすぐにイワナが飛び出してくれてひと安心。やはり水量は大事だと改めて実感したのでした。それほど頻繁ではありませんが、コンディションのいいイワナたちが疑うことなくフライに襲いかかってきます。
■行く手を阻むツル地獄! 薮の海に潜んでいた虫に夢中
午後になるとツクツクボウシも鳴き出しました。瀬音とのハーモニーが心地よく渓に響いています。すると、それに負けじとミンミンゼミも合唱を始め、まるで競い合っているよう。
高い堰堤がいくつも流れを遮っています。遡行を続けるためには高巻きを強いられるのですが、一見すると藪でも獣たちと共用の踏み跡を利用することで抜けられます。たとえ藪が濃くても日常的に“藪漕ぎ”をしている筆者にとってはそれほど問題ではありません。慣れない都会の人混みを歩くより自信をもって抜けられます。
しかし、この時期、このエリアの薮はひと味違います。どこも葛のツルがびっしりと蔓延っており、踏み入るのを躊躇してしまいます。それに比べたら、笹藪ですらツルがないだけありがたい。獣道を利用しつつ、前進を阻むツルを振り解きながらの藪漕ぎは、わずかな距離を進むのにも時間がかかります。藪の海です。
さらに気をつけていたのは蜂です。先日も数か所刺されたのですが、ようやく痛みと痒みが治ったばかり。知らないうちに刺激しないよう、気を配るのに気を使います。飛び交うアブの羽音も煩わしい。
そんな訳でゆっくりと進んでいると、ナナフシを見つけました。シラキトビナナフシのようです。レンズを向けても怒るでも逃げるでもなく、まるで葉の一部になったかのようにじっとしている奥ゆかしさ。その造形の細部までじっくりと観察することができ、藪漕ぎの途中であることをすっかり忘れて観察(撮影)に没入してしまいました。