◼️これは事業じゃなく、村づくりだ

はるばる大阪からも多くの仲間たちが駆けつけてくれた

 雪が溶けはじめる頃、テラスに階段をつけ、かまど用のログ東屋の作業を進める。気づけば、毎日、木と土と火にまみれている。ああ、これは完全に「村づくり」だな、と思った。なんだか『北の国から』の住人になった気分だった。

 大変だった。正直、しんどかった。でも同時に、人のありがたみや、ぬくもりを、これ以上ないほど感じる時期でもあった。

ご褒美はもちろんサウナ。大雪の日ならではの最高の外気浴体験だ

◼️そして、ようやくテントサウナが建った

アブが寄ってこないように白色をチョイス

 3月。ついに、最低限サウナができる環境が整った。テラスの構造を活かし、下にパレットと隙間のある断熱床を敷き、下から新鮮な空気が入る設計にした。

 サウナを科学で再定義するアカデミックサウナレーベル「madsaunist」の監修のもと、息苦しさのない、2種類の蒸気でしっかりとした湿度が保たれるテントサウナのセッティングをしていく。そしてこの場所に、科学と自然が融合した、唯一無二のサウナが建った。

過熱水蒸気発生装置が2つもインストールされた高湿度空間

 ちょうど1年前、少し下流でやっていた場所をトラブルで失い、積み上げてきたものやお金も道具も何もかも失って、正直、人生を終わらせることすら考えた。どうせ死ぬなら、最高の場所で、人生のすべてを賭けて、最高のサウナをつくってから華々しく散ってやろう。そんな覚悟で選んだのが、この場所だった。

 最初は、足の踏み場もない荒地だった。サウナができるかどうかも、正直わからなかった。借金をし、クラウドファンディングで応援を集め、県の補助金も使い、とにかく「できる!」と信じて進むしかなかった。

1年前の同じ場所。誰も手を出そうと思わない荒地だった

 当時を思い出し、一人で建てたテントサウナの前でちょっと目頭を熱くしながら、何度も何度も円原川に頭を下げた。大袈裟ではなく、この川は僕の命を救ってくれた。このたったひと張りのサウナに焚べる火は、僕にとって、新しい人生の“命の灯火”そのものだった。

 冬の間に溜まり続けた不安は、雪解けと共に静かに自信へと変わっていき、プレオープンの日が近づいてきた。