映画『シン・ゴジラ』や、ベストセラー『シン・ニホン』の“シン”には「神」、「真」、「新」などの意味があるという。そんな中、唯一無二の神秘的な場所で、今まで誰も体験したことがない“真の川サウナができる村”が誕生しようとしている……。
そう、まさに“シン・サウナ村”である!
今回から始まる本連載は、川サウナを愛し、自然を愛しすぎてしまった男による、「神」、「真」、「新」が詰まったサウナ村建設の記録である。喜びや苦悩、魅力や課題、成功も失敗も赤裸々に綴りつつ、サウナが持つ無限の可能性を現代社会に向けて発信していく。
■シン・サウナ村への夜明け
川霧に反射した朝日による光のシャワーが清流に降り注ぐ。静謐で苔むしたその光景はとても神秘的で、流れる時間は、街とは比べ物にならないほど緩やかで優しさに満ちている。その空間に、川のせせらぎと鳥のさえずりに混じって「こーん、こーん」と木を叩く音がこだまする。究極のサウナ村のベースとなるツリーテラス作りが始まったのだ。
ここは岐阜県山県市北部にある秘境。周囲は一面山に囲まれ、点在する集落はいわゆる消滅寸前の限界集落ばかりだ。この訪れることすら大変な辺鄙な地で、僕はこれから「水と草木をテーマにした循環型サウナ村」を作ろうとしている。
正直、ただのビジネス目的でやるなら街でやった方が断然効率的だ。じゃあなぜ、大変で、お金にもならないことがわかっているこの場所にサウナ村を作ろうとしているのか? その理由は「この場所でしか、この場所じゃなきゃ、究極のシン・サウナ村は成し得ないから」の一言に尽きるのである。
■運命の川 円原川(えんばらがわ)との出会い
僕は現在48歳で、20代の頃から川と山を中心に旅をしてきた。カヌーやパックラフトを駆使して旅した川の数は70本を超え、アウトドアライターとしても川旅の魅力を発信し続けている。川旅には、現代人が豊かに生きるためのヒントがたくさん詰まっていたし、僕自身、旅の中にその答えを求めていた。
そんな活動の中で、僕は運命の川と出会うことになる。それが岐阜県を流れる長良川の源流の一つ、「円原川(えんばらがわ)」だった。
この川は、ただ水が綺麗なだけの他の川とは何かが違っていた。どこか神秘的で、そこにいるだけで畏敬の念が湧き上がり、同時に何か特別な優しさにも包まれるという不思議な川だったのだ。そんな川は他にはなかった。
調べてみると、地質的にも水質的にも特異なものがあること、そして近年の環境の変化でその水が失われつつある現状を知るにつれ、「俺がこの川を守らなければ!」という、何か天啓にも似た使命感に包まれたのだ。
■大きな挫折が生んだ覚悟のプロジェクト
僕は円原川と、円原川が注ぎ込む神崎川の2つの川を拠点に活動を始めた。それが2019年のことだ。
以来、僕は円原川が生み出す「水」の魅力に接してもらう手段として、子ども向けの川の学校や、流域を巡るエコツアーの整備を続けてきた。この地の特別な水を体感し、その貴重さに気づいて知ってもらうことによって、川の保全や、地域の持続化に向けた取り組みをする関係人口を増やそう! というのが狙いだったのだ。
そのエコツアーの中で最も人気だったのが、テントサウナを活用した「神崎川サウナ」だった。肌あたりのいい川風呂は、ディープなサウナーたちから“奇跡の水風呂”と称され、はるばる遠方からも多くのサウナーが来訪。僕自身もテントサウナの魅力にどんどんハマっていき、持ち前の凝り性&追求性な性格も相まって、川サウナの研究まで始めてしまう始末。こだわり抜いたサウナと奇跡の川風呂は、サウナが苦手な人からも好評で、水の魅力に触れるための手段として最高の場所が出来上がりつつあった。
しかし、その高評価の裏で、運営面では利益追求に関する人間関係の予期せぬトラブルに巻き込まれ、神崎川サウナはわずか半年での閉業を余儀なくされてしまったのである。
これには僕自身大きな絶望感を味わい、一時はひどい鬱状態になって最悪の事態寸前まで追い詰められることもあった。しかし、そのことが、僕の中にある種の“覚悟の火”を灯すことになったのだ。