岐阜県の山奥にプレオープンしたサウナ村「THE WATERS」では、サウナとは別視点のもう一つの蒸し文化、日本古来の「蒸し風呂」にも着目している。その試みとして始まったのが、全国初(たぶん)の「リバービュー箱蒸し風呂」プロジェクトだ。

 テラス周辺には、清流の証ともいえる和ハーブ「セキショウ(石菖)」が群生している。その芳香を湯気と共に体内に取り込む。そんな蒸され体験が、この村でのひとつのととのい方になるかもしれない。

 その「蒸し風呂づくり(プロトタイプ)」の舞台裏をお届けしたい。

◼️なぜなのか?  なぜ蒸しなのか?

 「サウナ」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、いわゆるフィンランド式。薪ストーブで熱したサウナストーンに水をかけて蒸気を浴びる、あのスタイルだろう。だがじつは、日本にもサウナ文化はあった。しかも、千年以上前から。

 奈良時代、仏教の伝来とともに広まったのが、蒸気で身を清める「からふろ(蒸し風呂)」だ。江戸時代に湯船文化が大衆化するまで、日本人の入浴といえば“蒸される”ことだった。つまり、僕らは現在のサウナブームといわれる千年前から続く、筋金入りの蒸され民族なのである。

日本古来の蒸し風呂風景。窯で煮立たせた蒸気を浴室内に送り込む仕様(出典:国立国会図書館デジタルコレクション『慕帰繪々詞』から引用)

 以前、大分・鉄輪温泉で体験したセキショウ蒸し風呂の感動が忘れられなかった。セキショウ(石菖)という水辺に自生する和ハーブを敷き詰め、蒸気とともに芳香を体に通すあの感覚。呼吸からも皮膚からも香りが染みわたり、脳の奥がスッと鎮まっていく。しかも湯冷めしにくい。あれこそが、「蒸し」の本質だと感じた瞬間だった。

温泉で温められた床に石菖が敷き詰められた石室。浴衣を着て寝そべって蒸される

 日本古来の蒸し風呂文化と、セキショウ蒸しの感動を今、もう一度。 “日本人本来のととのい方”を再発見したい。そう思った時に、僕の中で浮かび上がったのが「箱蒸し風呂」だった。

 箱蒸し風呂とは、文字どおり木箱の中で蒸される風呂。首だけ出して、身体を湯気で包み込むスタイルは、ロウリュとも岩盤浴とも違う、もっと内省的で、静かな自浄行為。木の香り、湿度、包まれ感。まるで自分が“森の中の素材”になるような、そんな体験。顔だけ外気に晒されてるから、のぼせにくく長く入っていられるのも特徴だ。

 そして、THE WATERSの周囲にも、偶然にもセキショウが自生していた。川があり、木があり、香草があり、火があり、そして僕らには“やってみる自由”がある。ならば、作ろうじゃないか。世界初の「リバービュー箱蒸し風呂」を。

◼️大地を耕し、湯気の舞台を整える「蒸し場作り」

斜度のある荒れた場所を窯場にするために整地していく。腰痛い

 まずは舞台となる蒸し場=かまどスペースの造成から。すでにツリーテラスが完成していたため、頭をぶつけそうになりながら、かがみ作業の連続。腰は悲鳴をあげたが、そんな苦行も大事な準備工程である。

 土を掘ってならし、竹炭を撒いて微生物のすみかを作り、土壌を再生。杭には焼き杭を使って強度と耐久性を確保し、割った瓦で水の通り道(通気水脈)を作る。動線作りの時に学んだ、環境土木の技法を踏襲した。

環境土木工法はここでも活かされた。土壌を改善させながらの土台作り
お昼ご飯も蒸し物という徹底ぶり。蒸した肉まんが冷えた体に染み渡る
やがて、湯気を沸かすためのかまどを置くための土台が完成!

 何をするにも大変な作業になるTHE WATERSの現場。でもそこにはいつも笑顔と充実感がある。完成したこの土台の上に熱源を据えて(まずは簡易かまどで)、上のテラスへと湯気を送り込む準備が整った。