■杣添尾根から原始林を越え、高山植物の宝庫・横岳へ

八ヶ岳最高峰・赤岳と2番目の標高を持つ横岳のツーショット

●横岳登山者駐車場から苔むす樹林帯を進む

背の高いダケカンバに覆われた気持ちのいい登山道を進む

 登山の起点となるのは、八ヶ岳高原の別荘地の一角に用意された、横岳登山者駐車場だ。すでに標高1,751mの高地だが、目指す山頂との標高差は約1,100mもある。焦らずにゆっくりとしたペースを保ち進もう。

 杣添尾根からのコースは、横岳登山のメインルートである美濃戸(みのと)口と比較して、静かな山行を満喫できる穴場的な存在。登山口には登山ポストや案内板が設置されているので、登山届の提出とコースの確認を済ませたら出発だ。

 登山開始直後から、白っぽい樹皮が特徴の針葉樹、ダケカンバに囲まれた深い森が広がり、道中は豊かな苔に覆われた岩や倒木が織りなす幻想的な景観が続く。

 樹林帯を進むしばらくの間、景色は望めないが、筆者が登った6月中旬、登山道両脇の足元にはピンク色の可愛らしいイワカガミや、可憐な白い花を咲かせたミツバオウレンなどの小さな花たちを見ることができた。

苔のなかから、可愛らしい花を咲かせるミツバオウレンとイワカガミ

●大パノラマの展望台を経て、横岳三叉峰山頂へ

 樹林帯を抜け、さらに標高を上げていくと木々がまばらになり、視界が一気に開ける展望地にたどり着く。きれいなウッドデッキの展望台だ。この場所からは、赤岳や硫黄岳の岩峰群が目前に迫り、天候に恵まれれば南アルプスや富士山まで望むことができる。ここまで景観のない樹林帯を進んできたので、感動もひとしおだ。しばし足を止め、風を感じながらその壮大な景観を堪能しよう。

 展望台から山頂にかけては、木の根が張り出した歩きにくいエリアや岩場も現れるので、浮き石やザレ場に注意をはらいながら、より慎重な足取りが求められる。適度に休憩を取りながら行動しよう。

 岩場では、強風に煽られながらも逞しく咲くイワウメの姿が多く見られた。それからまもなく、横岳三叉峰を示す看板が見えてくる。遮るもののない山頂は強い風が吹くことがあるので、防寒対策にも気をつけたい。山頂では、荒々しい岩稜と青空のコントラストが広がり、達成感とともに深い感動を味わえる。

岩の隙間に根を張り、逞しく咲くイワウメ

●横岳奥の院を登頂したら、再び樹林帯を戻りゴール!

無骨な鉄ハシゴを越えると横岳奥の院山頂は目の前だ

 横岳三叉峰から、横岳の最高峰である奥の院を目指す。距離は短いが、ハシゴを使って岩場を越えるスリリングな道のりだ。

 岩場の影でイワウメが揺れる中、見慣れない草花に気づく。スマートフォンで調べると、どうやらこの花がツクモグサのようだ。山頂ですれ違う登山者が、皆一様に探していた花だ。日本では横岳と白馬岳の2か所でしか自生が確認されていないという、非常に希少な高山植物だ。か細い茎が強風にあおられ、なんとも心細い。それでもしっかりと耐えている姿に感動を覚えた。

うつむき加減に、淡い黄色の花をつけたツクモグサ

 山頂でのひとときを十分に満喫した後は、登ってきた杣添尾根を使って下山する。ザレ場ではスリップに注意して、慎重な足運びを心がけよう。樹林帯に再び入ると、涼しい空気と柔らかな地面が足への負担を和らげてくれる。

 帰路では、登りの際には気づかなかった景色や植物の姿が新鮮に映る。静寂の森に響く小鳥のさえずりや、沢のせせらぎに耳を傾けながら歩を進める時間は代えがたく、じっくりと自然の美しさを堪能できる。
やがて登山口が見えてくると、長い山行の達成感がこみ上げてくる。杣添尾根は登山者が少ない分、自然の息遣いを感じられる貴重なルートであり、混雑を避けて静かに山を味わいたいベテラン登山者には特におすすめだ。