理想のサウナ村をつくる! と宣言してから約9か月。ようやく、ツリーテラスができ、荒野に道もできた。

 最低限サウナができるようになった今、次に必要なのは、「サ飯(サウナ後の飯)」の場である。しかも、このサウナ村にふさわしいのは、ただの料理場ではなく、自然と共に火を扱い、調理そのものが循環の一部になるような装置だ。そこで僕らが選んだのが、「愛農かまど(あいのうかまど)」だった。

 今回は、なぜ僕らのサウナ村にこの装置が必要だったのか? そして、どんな思いと汗と泥にまみれて作っていったのか? その記録を残しておこうと思う。

◼️蒸す、飲む、浸かる。水のリトリートと、なぜ愛農かまどなのか

 僕らのサウナ村「THE WATERS」は、その名の通り、「水」をテーマにしている。その中心となっているのは、広大な石灰岩地帯の地下を流れて湧き出る「円原川の伏流水(中硬水)」である。

円原川の伏流水が湧き出る場所。ミネラル豊富で日本では希少な中硬水の水だ

 この水は、軟水のやさしさと、ミネラルの力強さを併せ持った奇跡のような水。キリッとしているのに優しいという、サウナの水風呂としては言うことなしの水だが、じつは「蒸し料理」にも最適だった。

 たとえば、中硬水の水で蒸し料理をすると……。

・肉の臭みを抑えて、やわらかく

・野菜や魚の旨味を引き立て

・ミネラルの働きで、素材と調味料のバランスが整い

・茶碗蒸しや蒸し鶏が、とろりと上品に仕上がる

 サウナで蒸され、川に浸かり、水を飲み、その水で蒸した料理を食べる……。水の循環を五感と内臓で味わう。愛農かまどは、そのための「蒸し場」として、うってつけだったのだ。

◼️五行を凝縮した、村のシンボルに

 五行思想とは、「木・火・土・金・水」という5つの要素の関係性を通じて、自然や身体、暮らしの調和を見つめる東洋の自然哲学だ。THE WATERSでは、この五行思想をコンセプトに据えている。自然と人、人と人、心と体が“調和”する空間を目指すからこそ、この5つの要素の体現場が必要だった。

五行のバランスが整えば、人も自然も穏やかになる

 そしてこの愛農かまどは、まさにその象徴だ。火を扱う装置でありながら、薪(木)で火をおこし、水を沸かし、土でできた本体を支え、金属で熱を伝える。五行の全てがここに凝縮されており、THE WATERSのシンボルとして最適な存在だったのだ。

◼️愛農かまどの背景と精神性

 愛農かまどは、戦後の燃料不足や森林荒廃という時代背景の中、全国愛農会(三重県伊賀市)によって開発・普及されたもの。小枝や落ち葉でも燃え、煮炊きもオーブン料理もでき、熱を無駄なく活かすエコな構造を持つ。

かまどづくりは、実際に使われている愛農かまどを見学し、使用者の話を聞くことから始まる

 だけど、本当に大切なのは、その背景にある「思想と営みの豊かさ」にある。

 モルタルを練る、レンガを積む、粘土を詰める、レンガを削る。かまどをつくる工程には、さまざまな作業がある。だからこそ、大人から子どもまで、誰でも関われる。

 「かまどをつくる」という行為を通して出会った人と人が、ともに作る喜び、完成させた達成感、火を入れるときの感動を共有する。そのプロセスこそが、愛農かまどの豊かさであり、「自然と共に生きるとはどういうことか」を、そっと問いかけてくる。

◼️火を伝える人、大西琢也さん

 このかまどづくりの講師を務めてくれたのが、火起師(ひおこし)・大西琢也さん。かつてTVチャンピオンの「サバイバル野人王」にも輝いた、火と自然暮らしの達人である。でも、彼のすごさは肩書きや技術よりも、火や土や自然と真摯に向き合ってきた時間の厚みにある。

大西さんはヨーロッパ最高峰・エルブルース山頂(5,642m)で火起こしを成功させたことも

 現在は岐阜・郡上市の石徹白(いとしろ)で自然学校「森の遊学舎」を運営し、暮らしの中に自然のリズムを取り戻すための活動を続けている。そしてなにより、愛農かまどの伝承者(本人は謙遜して愛農かまどの伝承者を志す者と称している)として、全国でその火を灯し続けている。

 今回は、愛農かまどづくりのワークショップを通じて、彼の精神性をこのサウナ村に注入してもらうことも目的のひとつだった。