「理想のサウナ村を作る!」と叫んだあの日から、気づけば荒野を開拓する生活が続いていた。
前回はツリーテラスが完成したが、今度はそこに安全にたどり着くための“道”がいる。それも、ただの道ではない ──「環境に負担をかけず、むしろ道を作ることによって森の状態が良くなっていくような道」である。
今回はその「道」を作るまでのお話。と書くと、ちょっと牧歌的に聞こえるかもしれないが、やっていることは“完全に筋トレ×地形攻略ゲーム”なのであった。
■道なき場所に安全な道を
もともとテラスの場所には、明確なアクセスルートがなかった。あるのは、獣が通ったような細い痕跡のみで、足の踏み場もないような有様だ。いくら「自然と一体になってね!」といっても、これでは流石にワイルドすぎるし、資材を運ぶにもリスクが高い。
そこで、ツリーテラス整備と並行して「動線作り」にも取りかかった。もちろん重機を入れられない斜面の地。材料を運ぶのも、整地するのも、すべて人力で行うのだ。

■ただの整備じゃ意味がない
もちろん、ここは循環型のサウナ村だ。森を壊してまで道を通す、なんてことは絶対にしたくない。むしろ、道をつけることによって森が良くなる。そんな逆転の発想が必要だった。
そこで今回、頼りにしたのが、僕の川友達でもあり、庭師、パーマカルチャーデザイナー、ネイチャーインタープリターの庄司正昭さん。さらに、この地の自然再生の志を同じくする庭師チームや、ボランティアの開拓村民の人たちと共に、この難題に挑戦していったのである。

■土留めは、斜面を守り、森を生かすための仕掛け
動線作りの前に取りかかったのが「土留め」作業だ。土留めは、斜面や崩落の危険がある法面(のりめん)を安定させる、いわば森の防壁である。だけど、もちろんコンクリートなんて使わない。ここでやるのは、自然素材だけを使った、“呼吸する土留め”だ。
まず斜面を階段状に整地し、焼き杭を打ち込んでいく。わざわざ火で焼くという手間をかける理由は、防腐・防虫だけじゃない。炭化層が土中の水と空気の通り道を整え、微生物のすみかにもなるからだ。


土留めの地中には砕いた瓦をハンマーで打ち込む。これが水の通り道となり、土の中の滞留水をスムーズに流す。その上に炭と落ち葉を交互に重ねることで、通気性・保水性・微生物環境の改善を図っていく。


杭と杭の間には、開拓の途中で出た杉の枝や竹、雑木を組み込んでいく。この手法を「柵組(しがらぐみ)」という。かつて治山や里山保全に使われていた技術だが、今また「循環型工法」として注目されているのだ。

最後に、ここに自生していた植物をもう一度植える。根が土をつかみ、葉が雨風を防ぎ、やがてそこが森に還っていく。土留め一つ作るだけでとてつもなく大変な作業である。