立春を迎え、暦の上では春になった。とはいえ、まだまだ寒い日々は続くが、山歩きは多少寒いくらいがちょうどよい。

 今回紹介するのは、京都府亀岡市と京都市の境、亀岡側にある牛松山(標高636m)である。

 なぜここにやってきたのかというと、亀岡周辺には、知る人ぞ知る京都の穴場スポットが点在しており、牛松山もまたそのひとつだからだ。

■京都市の愛宕山の愛宕神社は、愛宕神社の総本宮ではなかった!?

愛宕神社(元愛宕)
牛松山と愛宕山の位置関係(国土地理院地図より引用)

 実は全国に存在する愛宕(あたご)神社の発祥地は、京都市の愛宕山にある愛宕神社ではない。本当の発祥地は、牛松山山麓にある愛宕神社である。この神社は「元愛宕」とも呼ばれ、愛宕神社の総本宮とされている。愛宕山と牛松山は市境を挟んで向かい合っており、愛宕山の愛宕神社は亀岡の愛宕神社から勧請された神社なのだ。

愛宕神社境内の御神木
愛宕神社に祀られている放水器
愛宕神社参道

 鎌倉時代に建立された牛松山の愛宕神社本殿は、国指定重要文化財に指定されており、その境内には社務所の玄関より太い大きな御神木がそびえる。またレトロな放水器が祀られているのも見どころだ。重要文化財だけに火事に敏感なのはわかるが、このようなものが祀られているのは初めて見た。

■京都観光で大人気の保津川下りの陰に金刀比羅(ことひら)神社あり

金刀比羅神社境内
金刀比羅神社に奉納された奉納船。昭和45年と書いてあった
金刀比羅神社参道の鳥居

 牛松山山頂付近にある金刀比羅神社は、船の神様を祀る神社である。この神社は保津川(ほづがわ)下りの船頭衆からの信仰が厚い。保津川下りは京都観光では大人気だが、危険も伴う。船頭衆たちは毎年1月初旬に牛松山に登り、金刀比羅神社に参拝するという。境内には船頭衆が奉納した奉納船が吊るされている。山の名前は古くは石松山だったらしいのだが、自然災害を鎮めるため牛を祀る神事が行われたことから牛松山になったのだとか。

 金刀比羅神社への正式な参道は国分(こくぶ)登山口より南側にある。この参道を歩けば、多少景色もよいのだが、今回は愛宕神社を訪れたかったため、神社脇の国分登山口を利用した。

牛松山国分登山口
牛松山登山道にある熊除けの鐘
牛松山登山道。ナイスアイデア! 熊除けの鐘をたたく槌

 愛宕神社からの登山道は、木々の隙間からときどき景色が見えるものの眺望は悪い。しかも山頂までずっと急登が続く。なかでも「巫女(みこ)転がし」と呼ばれる場所は特に傾斜が急である。不謹慎ながら急坂を転がっていく巫女さんが目に浮かび、笑いが込み上げてきた。

写真では傾斜が伝わりづらい「牛松山の巫女転がし」を見下ろす
「牛松山の巫女転がし」の道標
「牛松山の巫女転がし」の傾斜

 山頂の道標がある三角点は標高629m。そこから3分程度で標高636mのパラボラアンテナがあるピークに至る。正直どちらが山頂なのかわからないが、このあたり一帯が山頂なのだということで納得することにした。眺望は限定されるが、パラボラアンテナがあるピークからは京都市街地が遠望できる。金刀比羅神社はこのピークから徒歩1分。

標高629mの三角点がある牛松山山頂
標高636mのパラボラアンテナがある牛松山のピーク。ここを右へ曲がり1分歩くと金刀比羅神社
パラボラアンテナがある牛松山のピークから、少しだけ京都市街地が遠望できる

 金刀比羅神社境内は明るく雰囲気もよい。さっそく筆者は本殿に賽銭を入れ、本坪鈴(ほんつぼすず)を鳴らそうと鈴緒(すずお)を振ったのだが、その瞬間、社の天井が震え、土埃が降ってきた。鈴緒を振ると社が壊れそうなので、参拝は柏手を打つ程度にしたほうがよさそうである。

金刀比羅神社の本坪鈴
金刀比羅神社のお札は100円以上のお賽銭を入れるといただける
金刀比羅神社のお札をいただいた

 なお、金刀比羅神社では賽銭を入れてセルフでお札をいただくシステム。筆者もお札をいただいて帰った。

金刀比羅神社裏の木に大型の獣が体をこすりつけた跡があった

 ところで金刀比羅神社境内で休憩中、獣臭が漂ってきた。そこで熊除けのために鳴らしていたAmazonオーディブルの音量を最大に。するとガサガサという音がして獣臭が遠ざかっていった。神社裏の木の幹には大型の獣が体をこすりつけた跡があったので、獣が多いのであろう。