■オーシャンビューの温泉宿に滞在
「天然砂むし温泉」の施設がある海岸近くには、温泉街が広がり、オーシャンビューのホテルや旅館が建ち並ぶ。今回滞在した「指宿温泉 夫婦露天風呂の宿 吟松(ぎんしょう)」は、「指宿砂むし温泉 砂楽」から歩いて1~2分ほどの距離。こだわりの温泉と食事を堪能できる居心地のよい宿だ。
本館最上階にある「天空野天風呂」は、湯船が海へと続いているように見えるインフィニティ露天風呂。壮大な景色とともに湯浴みを楽しめ、心身ともに癒される。朝日や夕暮れ、星が瞬く夜空など、時間帯によって変わりゆく風景も見逃せない。
夕食は季節の旬を取り入れた会席料理。刺身をはじめとする海鮮や、黒牛、黒豚のブランド肉など地元の味覚をふんだんに味わえる。テーブルの真ん中に源泉が流れる「温泉卓」は、湯で竹酒を温めたり、温泉卵を作ったりできるユニークな食卓だ。
さらに、鹿児島の伝統食であるさつま揚げは目の前で揚げたものを提供。きつね色に揚がった熱々のさつま揚げは、身がふっくらしていて格別のおいしさ。特製の黒酢タレをつけるのが、ここならではの食べ方なのだという。
和モダンな雰囲気の館内は、吹き抜けになった開放的な空間。館内のあちこちに精密な絵付けの薩摩焼の陶器が飾られていて格式の高さも感じられる。その一方で、スタッフはアロハシャツを身につけているなど、南国らしい明るさにも満ちている。
施設内には展望デッキやハイビスカスなど南国の植物が見られるガーデンがあり、散策しながら海の景色を楽しめる。日が暮れると対岸の大隅半島の夜景がまたたき幻想的な風景だ。
また、この宿に滞在してゆっくりくつろぎ、翌朝早くに開聞岳に登りに行く宿泊客も多いという。
■開聞岳のビューポイント「長崎鼻」
指宿市のシンボルである開聞岳は地元の人が「一度は登ったことがある」と語る、地域で親しまれている名峰。沿岸部にはその山を一望できるビューポイントがいくつもあると聞き、その景色をぜひ見てみたいと「長崎鼻」という岬を訪れることにした。
薩摩半島最南端に突き出た「長崎鼻」は東シナ海が目の前に広がる開放的な場所。遮蔽物がないので、海越しに開聞岳の姿をまるごと見ることができるのだ。
また、このあたりの砂浜も、「天然砂むし温泉」と同様に黒い砂になっているのが印象的。ソテツがたくさん自生しており、指宿らしい温暖で亜熱帯的な雰囲気が感じられる。
岬の先にある長崎鼻灯台は、「恋する灯台」に認定されているとあって、ハートマークのオブジェが設置されている。また、長崎鼻はウミガメの産卵地としても知られているのだとか。
この地は、浦島太郎が竜宮城に旅立ったという伝説があり、乙姫のモデルとされる豊玉姫を祀った龍宮神社が鎮座している。お参りすると、大きな壷に願い事が書かれた貝殻がたくさん入っていた。縁結びのご利益がある神社だそうで、貝殻に名前と願い事を書いて恋愛成就を祈願するのだという。
■開聞岳が神体山の「枚聞神社」
市内には開聞岳をご神体山とする神社があるというので、そちらにも足を延ばすことにした。市の南西部、開聞岳の麓に鎮座する枚聞(ひらきき)神社だ。
古くから交通・航海の安全や漁業守護の神として、地域住民から信仰を集めきたこの神社は薩摩の一の宮。「初詣はここに訪れる」というほど地元で親しまれている存在だ。
宮司のお話によると、もともと神社は開聞岳に祀られていたが、874年に開聞岳が噴火したことで、現在の場所に移されたのだという。また、「普通、神社は南向きになっているけれど、この神社は開聞岳にお参りできるよう南を背にして建っている」と教えていただいた。
拝殿の向こうに開聞岳のピークがはっきりと見え、そちらに向かってお参りする。開聞岳の山頂付近には枚聞神社の奥宮となる御嶽神社が祀られており、開聞岳が噴火した旧暦の3月4日に例祭を行なっているという。
島津藩主からの崇敬も厚く、総朱塗りの極彩色で飾られた本殿は県の重要文化財にも指定されている。天明7年(1787年)に島津重豪が作らせたという“龍柱”は、向拝柱に雲龍が彫られた堂々たるものだ。また、宝物殿に国の重要文化財に指定されている「松梅蒔絵櫛笥」(玉手箱)が収蔵されていたが、現在は数年がかりの修理が行なわれており、今後は年に数回展示予定だという。
■指宿で感じる大地の恵み
太古の噴火によって豊富な温泉がもたらされ、「天然砂むし温泉」のようなユニークな人気温泉観光地が生まれた指宿市。日本百名山のひとつに数えられる開聞岳も噴火によってできあがり、その開聞岳を神体山とする神社が地域で深く親しまれている。そうした大地の恵みを全身で感じられるのが指宿の魅力。温泉宿も充実しているので、泊まりで出かけて“これぞ指宿”という楽しさをたっぷり体験してこう。