■兎岳を経由し、赤石岳へ

兎岳からの霧雨降る登山道を進む

 次の朝は雨。予報では翌日朝から天候回復とのこと。弱い雨足を見て、結局は聖平から下山せず、赤石まで歩いてから、荒川三山へは行かずに椹島を下山することにした。

 標高差750mを登り切り、聖岳山頂から雨に降られる山々を眺めた。そして急斜面を下り兎岳へ向かうと、霧で視界が聞かなくなった。絶えず雨が降っていたが、強く降ることはなく風も弱かったので助かった。寒い中、約6時間で「百閒洞山の家(ひゃっけんぼらやまのいえ)」に到着した。

雨多き森に佇む、ありがたい「百閒洞山の家」

 稜線から外れた小川のほとりに佇む百閒洞山の家が見え、安堵のため息が漏れた。ストーブで体を温め、揚げたて、ボリューム満点と評判のトンカツをほおばった。

百閒平から見る大きな聖岳

 翌朝、ようやく雨がやみ、日の光をまぶしく感じながら、赤石岳へと向かった。歩いているとNHKにインタビューされ、 TJAR(トランスジャパンアルプスレース)の選手に対する感想を聞かれた。TJARは日本海から北、中央、南アルプスを縦断し、太平洋まで徒歩のみで完走する過酷なレースだ。山頂直下の赤石岳避難小屋で一休みしながらボロボロにむけた足を乾かしている選手を見かけ、思わず声援を送った。

 3日ぶりに晴れて高揚する気分の中、赤石岳山頂に到達。山並みのさらに奥に見える富士山を眺めた。

赤石岳から見えた、盛夏の富士山

 赤石岳からの風景は、ごろごろとした岩と、どこまでも続く緑に包まれていた。長い道のりの果てにたどり着いた山頂から眺める景色は一段と美しく見えた。

 このまま荒川三山へ向かいたかったが、日程を縮小し赤石岳から椹島へ下山することに。名残惜しい気持ちを胸に赤石小屋へと向かった。

 通算3度目の宿泊となる赤石小屋で、かねてから欲しかった小屋番さん作成のニット帽を購入。そして翌朝、標高差約2,000mの急な斜面をかみしめるようにゆっくりと椹島へ下り、バスに乗り沼平へ。深い安堵とともに疲れがどっと出て、体が重くなったように感じた。

 焼津のホテルで風呂に入り、バイキングを食べながら「とても楽しい山登りだったね」、とパートナーと話し、8日間の山登りは忘れられない思い出となった。

次回訪れることを誓って眺めた荒川三山方面

■準備万端でロングトレイルを楽しもう

 今回のプランでは、元々2か所のエスケープルートを選定していた。このように「もしも」の予定を立てておけば、非常時に慌てることなく山登りを楽しめる。体調が優れなかったり、急用ができたときにも重宝する。

 もちろん悪天候がわかっている場合は、引き返す判断が重要。装備を確認し、悪天候時の避難ルートや小屋を確保し柔軟に対応しよう。変化ある山行も含め楽しい思い出の一つになるはずだ。

 筆者の茶臼岳から荒川三山までの一筆書き山行は赤石岳から途中下車してしまったが、また登ろうという意欲も沸いた。ぜひ楽しい夏を南アルプスで過ごしてほしい。

●【今回の登山行程】

1日目:沼平駐車場(6:30)⇒横窪沢小屋(10:00)⇒樺段(13:00)⇒茶臼小屋(14:00)
2日目:茶臼小屋(7:00)⇒茶臼岳(7:30)⇒聖平小屋(10:00)
5日目:聖平小屋(6:00)⇒聖岳(7:30)⇒兎岳(9:00)⇒飯盛丸山(10:30)⇒百閒洞山の家(14:00)
6日目:百閒洞山の家(7:00)⇒赤石岳(10:30)※2時間ほど滞在⇒赤石小屋(14:30)
7日目:赤石小屋(7:00)⇒椹島(10:30)⇒沼平駐車場(12:00)

聖岳から兎岳を眺める

●【MAP】聖岳

●【MAP】赤石岳