■覚悟の上陸か、はたまた見通しをもった余裕の行動か
気が付くと、波打ち際にはたくさんのクサフグがやって来ていました。クサフグは、波打ち際に産卵をします。それは、海中からなるべく離れた場所に産卵することにより、外敵から卵を食べられないようにしているのだそうです。しかし、自分の身を海の中から陸に投げ出すことは、命を懸けての行動でもあります。実際、砂浜に乗り上げたクサフグたちは、暴れることなく静かに体を横たえていました。それを覚悟していたかのように。
しかし、一方で、彼らはこれから海が満ちてくることを知っていて落ち着いていたのかもしれません。だからこそ、大潮の満潮前に産卵をしていたのでしょう。100匹以上もいたクサフグたちは、いつの間にか徐々に減っていき、最後の1匹がいなくなったのは、産卵開始から40分が経った頃でした。
あれだけたくさん岸に横たわっていたクサフグが全て海に帰ったのを見た時、なにかの魔法にかけられていたかのような感覚を覚えました。あのダイナミックな産卵行動は幻覚だったのでしょうか。それくらい動と静のギャップが大きいひと時でした。しかも、産卵場所は、長い海岸線の中のわずか7、8mというごく限られた場所なのです。そこに必ずやって来るという神秘さ。うっすらとオレンジ色に染まる海面を見つつ、祭りの後のような感動と寂しさと感じながら現地を後にしました。
今シーズンのクサフグの産卵チャンスはあと3回。ネットなどで調べると、お近くの産卵スポットが紹介されているかもしれません。ぜひ多くの方に、この自然の営みを自身の目と心で確かめていただきたいと思います。