■光明皇后の千人施浴伝説

 法華寺を建立した光明皇后は、初の皇室外出身の皇后(美智子様や雅子様の先駆けの存在)で、信心深く慈愛に満ちた女性だった。薬草を栽培して病人を治療する「施薬院」や、貧困層や孤児を救う「悲田院」を造ったのも彼女で、女性社会福祉活動家の先駆けとしても知られている。

 天然痘が猛威をふるっていた当時、光明皇后は「人々のために功徳風呂を造り、1000人のからだを洗いなさい」という仏のお告げを受けて浴室(からふろ)を造った。そしてそのお告げ通り、貴賤を問わず老若男女1000人の民の垢を自らの手で丁寧に洗ったのだ。

 やがて最後の1000人目として入ってきたのは、病気で身体中が膿んでいる老人だった。しかもその老人は、「この膿を口で吸って綺麗にしてくれ」と言ってきたのだ。流石にお付きの人は止めたが、皇后はその手を振り払ってすべての膿を口で吸い出した。すると老人はピカーっと光って、阿閃如来(あしゅくにょらい)に変化した。そう、この膿だらけの老人は薬師如来の化身だったのだ。

 この「光明皇后の千人施浴」以降、流行り病は沈静化し、浴室(からふろ)はその後も多くの病人を癒やしたのである。これがある意味、日本サウナの誕生の瞬間(?)と言っても過言ではない。日本のサウナは、1人の女性の愛から生まれたものなのだ。

■現代でも体験できる「からふろ」

 現代でも、この「からふろ」を体験できる場所がある。サウナの老舗ウェルビー今池店と福岡店では、光明皇后の故事に倣って、法華寺の浴堂をモチーフにした蒸し風呂を提供している。

今池店のからふろ内部(写真:サウナ&カプセル ウェルビー公式Xより)

 千有余年の時を経て現代に甦ったからふろで、光明皇后の愛に思いを馳せながら蒸されてみてはどうだろうか。