■森太郎への決心
筆者は、初めて森太郎に触れた2011年4月から森太郎の写真を撮り始め、美しい立派な森太郎を写真に残すと決めていた。
2011年4月から毎週片道5時間かけて鍋倉山に入山し、試行錯誤を重ね、ようやく5度目の入山2011年5月18日に、お気に入りの1枚を撮ることができた。
その後は鍋倉山に頻繁に入山しないほうが、鍋倉山のブナの森の保全に繋がると考え、森太郎の生存確認のように1年か2年に一度のペースで森太郎に会いに行った。
■森太郎に最後に会った日
最後に森太郎を見たのは、2022年4月30日。友人を招いて鍋倉山に登った時のことだった。山頂に登り、巨木の谷に下りようと、淵に来たところで大雨が降り、森太郎の側に行くことはできなかったが、森太郎に見慣れている筆者には、遠くからでも十分に黒々と寂しそうに巨体を雨に濡らす姿を確認できた。
■お気に入りの1枚
最後にお気に入りの1枚を撮った時の話をしたい。
森太郎が芽吹いたと思われる2011年5月中旬に筆者は鍋倉山に入山した。深夜のロングドライブで疲労困憊の早朝、消え始めた雪のせいで絡まる薮に苦しんだ。轟々と響く沢の雪解け水に息を呑み怖くなり疼くまる。
ふと振り向くと、白い毛皮が目に入って唖然とした。なんと背に張り付くような近さでカモシカが立っていたのだ。驚く筆者を尻目に、カモシカはどんどん急な斜面を登っていく。筆者もそれを必死に追った。引き離されたが負けずに登っていると、いつしか怖さは消えていた。
巨木の谷に着くと、日本の春、青空の中、緑の葉を揺らして凛と森太郎が立っていた。筆者はシャッターを押した。
森太郎と森姫が倒れた鍋倉山だが、二本の木を育んだすばらしい里山であることに変わりはない。入山時にはコースを外れない、ゴミは持ち帰る、生物や植物は持ち帰らない等のルールを守り、いつまでもこの里山が輝く姿を後世に残していこう。
鍋倉山は里山だが、積雪時の登山等危険が伴う。なお、山麓の集落や自然環境への配慮も必要だ。事前に情報収集のうえ、自身の適切な判断にて、ローカルルールを守って入山しよう。