■有機栽培の食材を使った極上の郷土料理
周囲はすっかり暗くなり、待ちに待ったディナー・タイムがやってきた。レストランには、大きな長い木のテーブルが1つあるのみ。これはイタリアの伝統的なテーブル様式で、見知らぬゲスト同士が隣り合って座り、食事を共にすることで思いもかけない出会いが生まれることを意図している。
この夜はアグリツーリズモの宿泊客だけでなく、テイスティング・ツアーに参加してそのまま夕食もここで済ませることに決めたアメリカ人カップル、近隣の村から食事のみに訪れた若者グループなど、いずれもこの日初めて顔を合わせた20数名が1つの食卓を囲んだ。
レストランのメニューは毎日変わり、シェフ自らが厳選したその日、その時の旬の素材が味わえる。土地の素材の良さを最大限引き出せるトスカーナの伝統的な家庭料理がメインで、ブルネッロの赤ワインとの相性は言うまでもなく最高である。
トスカーナのアンティパストの盛り合わせを前菜に、プリモは悩みに悩んだ末、4種類あるパスタのうち「ズッキーニとサルシッチャ(=ソーセージ)のタリアテッレ」をチョイス。
メインディッシュは3種類あり、どれもこれも大好物なので決められずにいたところ、レストラン担当のステファノが、「ペポーゾは牛のすね肉を赤ワインと胡椒でとろとろに煮込んだ、ここならではの伝統料理だよ。ワインが進む美味しさだ」と教えてくれた。ふむ。せっかくの機会だから、“ワインづくし”で行くことにするか。料理を待つ間、隣席の2組のカップルと「今日はどこで何をした」という話で盛り上がり、すでに和気あいあいとした雰囲気で食事を楽しむための準備が整った。
満を持して登場した料理は、いずれも期待以上の美味しさだった。ズッキーニの甘さとほんのり塩味の効いたサルシッチャは優しい味で、思わず頬が緩む。続いて登場したペポーゾは、どっしり重厚な赤ワインと胡椒で牛肉の旨味をより一層引き立てた逸品である。見知らぬ人々とのおしゃべりを肴に、極上のワインと料理を夜がふけるまでたっぷり味わった。