静岡県が県内の日本茶産業を紹介するために主催するメディアツアーに参加することになった私は、フラットな視点で静岡の茶産業の現状を見てみたいと思った。前回は静岡市両河内地区の若き茶生産者たちの挑戦、地元日本茶インストラクターが創意工夫し静岡食材を生かす飲食店をお届けした。今回はその続編である。

富士山を望む絶景茶畑テラス、イケメン茶農家集団、凄腕料理人の絶品ランチ! フランス人茶商、ステファン・ダントンが茶産地静岡の本気度に唸る!【静岡県・静岡市】

 静岡市内の茶産業の現場をめぐるツアーは、午後も続く。目指す先は葵区栃沢という場所。市内から1時間ほどの茶どころで、静岡に茶の種を持ち込んだ鎌倉時代の禅僧、聖一国師の生まれ故郷。

 昼食を終えてバスに乗り込む午後の静岡はよく晴れて、「まるでニース」。車窓の景色を眺めながらみんなにいうと、きょとんとした顔をした。

 私が「年中温暖で海から山に風が抜けていく気候と山から海に水が流れてできた土壌、それに裏打ちされた農産物の豊かさは、フランス南部の海辺のまちに本当によく似ている。静岡は、日本から独立しても成立する数少ない県の一つだ。山があり、海があり、農地がある。産業もあって、発電所もあって、空港も港も新幹線の駅もある」と続けると、「ステファンは本当に静岡が好きなんだね」と簡単に片付けられてしまった。

 少しずつ勾配を上げる道の両脇に、みかん畑が増えてくる。けれど、最近はみかんから生産作物を別のものに切り替える農家も増えているそうだ。

 「静岡といえば、みかんだよね。でも最近は静岡のみかんを見かけないね」と同行者。

 「静岡みかんは勝手にどこかへ行ったわけじゃないよ。みんなが買わなくなっただけだ」と私。

 みかんが置かれている現状も日本茶と同じ。国内での消費量が下がっているんだ。もっと地元特産品の魅力を伝え、地域全体を活性化するにはどんな方法がありうるかについて思いを巡らせているうちに、車窓からの景色はすっかり山間の茶畑の集落に。

栃沢の風景

■在来種を育成する茶園 〜古民家から本物の日本茶文化を発信する「先生」~

 栃沢にたどり着いた私たちは、茶畑に囲まれた昔ながらの縁側のある民家の庭先に案内された。縁側と向かい合うように、やや近代的な作業場もある。出迎えてくれたのは、日本茶を種から育てる在来種の研究と高品質な茶葉の生産で知られる「山水園」のあるじ、内野さんだ。少し日焼けした顔と手元に茶農家らしい精悍さが溢れている。一方で、その表情や物腰には、すきのない僧侶のようなムードも漂っている。

「山水園」内にある自宅の縁先で自作のお茶を紹介する内野さん

 縁先に用意してくれていた在来種の紅茶を一口いただいて、家の中へ。座敷には大勢がお茶会できるような準備がしてあった。席について見回すと、どっしりした神棚と床の間。床の間には、お寺の風景を描いた掛け軸がかかっている。

お茶席の支度をする内野さん