■雪山の必須アイテム「アイゼン」の種類と使用例

左からチェーンスパイク、軽アイゼン、12本爪アイゼン。それぞれ刃の配置位置、長さなどが異なる。靴との相性もあるため、フィッティングは重要(撮影:彩)

 アイゼンはそれぞれの爪の深さや本数などによって、適応シーンが異なる。

 チェーンスパイクは、積雪量が少なく岩肌や土の地面が露出しているような雪道や、アイスバーンになっている箇所で使用すると刃が短いため歩きやすい。

 軽アイゼンはチェーンスパイクに比べ爪が長いため、地面が露出していないほどの積雪がある道に対してよく刺さり、斜度が大きい登山道がある山であれば、つま先やかかとにも爪が配置されたモデルが歩きやすい。

 12本爪アイゼンは、ピッケルも併用しないといけないような雪山や、かなり斜度がきつく、靴を蹴り込みながら雪面に刃を突き刺し登っていく山で使用する。軽アイゼンに対して、歯が長く、特に前爪が蹴り込みに特化しているものを、そのまま「アイゼン」と呼ぶ。

 ちなみに、アイゼンはドイツ語で、英語やフランス語ではクランポンと呼ばれる。

チェーンスパイクを着用した様子(撮影:彩)

 アイゼンの装着には靴との相性もあるため、購入前に登山靴とフィッティングしてみることをおすすめする。

■服装選びに加え、衣類のレイヤリングも重要

 日常生活では特に意識しないが、登山では衣類の「レイヤリング」も大切な準備行程の一つ。レイヤリングとは重ね着の意味で、いくつかの衣類を組み合わせてコーディネートを決めていく。行動中には、この重ね着をどう組み合わせるかによって、体温調節を行なうのだ。

 筆者は、冬であっても汗をかくシーンを考慮し、速乾性のある化学繊維を用いたアンダーウェアやシャツを使用している。汗をあまりかかないのであれば、より保温性の高いウール(羊毛)素材のものを使用してもよい。

 また、行動開始時や休憩中は体温も下がり寒さを感じやすいため、保温着として中綿の入っている衣類や、フリースの着用がおすすめ。

 さらに、風があり寒さを感じるときには、アウターとして防風性のあるウインドシェルや、防風防水性のあるレインウェアを着用する。本格的な雪山登山をする際には、アルパインウェアと呼ばれる、レインウェアよりも強度があり、滑落に備え雪面に対して滑りにくくなっているなど、高機能ウェアもある。

レイヤリングの一例。内側から、速乾素材のシャツ(ベースレイヤー)、中綿が入っているベスト(ミドルレイヤー)、防水防風機能があるレインウェア(アウターレイヤー)(撮影:彩)

 肌に触れるアンダーウェアは特に重要だが、綿(コットン)やレーヨンという素材が混合しているものは汗乾きが悪いため注意が必要だ。

レーヨンを用いたアンダーウェアの一例。レーヨンとは絹に似せて作られた化学繊維の一種(撮影:彩)

■山行を安全に、万全の状態で臨むための準備とは<事前の情報収集や、専用のウェア・ギアの知識、綿密な登山計画>

 登山の事前計画には、その山の現在の状態をなるべく正確に把握しておく必要がある。「YAMAP」や「ヤマレコ」といった、登山向けGPSアプリでは直近の登山レポート写真を見ることができ、参考になる。

YAMAPの登山日記は、公開設定にしている日記ならば自由に見ることができる(撮影:彩)

 インスタグラムなど、写真を多用したSNSでも直近の様子を写真で知れるのでおすすめだ。とくにその山や、山小屋の公式アカウントがあると、正確な情報を知れる。

 ライブカメラが設置されている山では、その山のHPやYouTubeから山頂の様子をリアルタイムで確認できる。

 日本気象協会から提供されている「山の天気」でも、山頂の気温や風速、天気をおおまかに知ることができる。

 それらから得た情報を踏まえ、今回の山行に必要であろう装備やウェアを割り出そう。もちろん正確に割り出すことは難しいので、あらゆる可能性を考慮して準備を行い、もしもの際に備えよう。行動時間や体力においても言えることだが、“余裕を持った”登山計画が何よりも大事なのである。

 また、ウェアやギアの知識に関しては、日頃から勉強するようにしておこう。本やSNS、メディアから情報収集し、具体的に知りたい内容があれば、登山用具店の店員や先輩登山者に聞いてみよう。

 綿密に練った計画で行う山行は、行きあたりばったりの山行よりも何倍もの学びがあるはず。準備をしっかり整えて、素晴らしい山登りを楽しんでもらいたい。