■山の仕事にはどうしたって男手は必要だ

生ゴミの処理方法は「キエーロ」で。これもスタッフの知識から

 山小屋の仕事は力仕事も多いし、歩荷の仕事もある。いくらパワーのあるわたしでも、遭難事故があった時に登山者を数時間担ぎ続けるような力はない。また、発電機やバイオトイレなど機械に不都合があると、お客さんに迷惑がかかるどころか私たちの生活すらも危くなるし、やはり女性だけでは安全管理上の心配もある。力持ちで、欲を言えばメカに強い男性にいて欲しいと思う。

 なんとしても、営業開始までに男性スタッフを見つけなくては。この問題はなかなか解決しなかったのだが、縁あって昨シーズンのメンバーに入ってくれたのが、高橋くんだ。

 彼は本当は山より海派で、太陽を愛しているタイプ。世界一周の旅に出ている途中でコロナ禍に遭い、タスマニアに滞在して世の中が元通りになるまで粘っていた。しかし、「このまま世界を旅しても楽しめない」と感じて、とうとう旅に見切りをつけて帰国となった。そのタイミングで、ちょうどよく急遽小屋に入ってくれることになったのだ。

いやぁー! 111日、高橋くんのあっぱれなみじん切り

 じつはこの方、金物屋さんの倅である。タイに「workaway(旅人が一定の労働を提供する代わりに、ホストファミリーが宿泊と食事を提供するサービス。金銭のやり取りはなし)」で滞在中は、ヤシの木を使って屋根付きスペースを作る作業を手伝っていたらしい。支柱を建てるために、鉄の棒でひたすら穴を掘っていたというのだから、なにから突っ込んだらいいものか。ネタには困らない人だ。

 その労働の対価として、家庭の味「マッサマンカレー」のレシピを教えてもらえたというから、粘り強く辛抱強い。DIYも好きというから、「この人は光岳小屋に来るために、これまで修行してきたのか?」と思うほどぴったりな人材だった。

 本場のタイで修行してきたというから、光岳小屋の料理長は高橋くんに決まった。高橋くんはすごかった。まず、とっても丁寧なのだ。夕食のカレーにはニンニクや生姜、玉ねぎ、スパイスなどがベースになっているが、毎回まな板の上できれいに細かくカットしている。毎日同じ料理を作り続けて飽きやしないか、と心配したが、「その日のお客さんの年代や性別によって味を少し変えたり、味噌を足してみたり、と楽しくやっているから大丈夫」とのこと。いやはや。