それにしても20年ぶりのカトマンズなのである。
まず驚いたのは交通量の圧倒的な増大ぶりだろうか。大通りだけでなく、あらゆる路地にクルマとバイクが殺到し、夕方のラッシュ時ともなれば道路はまるで洪水だ。なんだかネパールというよりインドの大都市のような喧騒なのである。
それに中間層や富裕層が訪れるショッピングモールがいくつもできていた。その中だけはまるでバンコクかクアラルンプールのようにきらびやかで、日本並みの値段のレストランやカフェが並び、ブランドショップがまぶしく輝く。そんな新しいカトマンズを眺めるのもなかなかに楽しい。
■カトマンズ旧市街をさまよう
そしてこの街の基礎的なたたずまいは、どれほどに時間を経ても変わっていないのだと、僕は歩くほどに知った。
中世のような石畳の路地を巡ると、不意に現れる寺院。そこから響く鐘の音。ろうそくを灯し、祈りを捧げている老婆。古い石造りの民家の合間を通り、人の流れについていってみると、今度は小さな商店がびっしりと蝟集する一角に出る。金物屋、布地、スパイス、野菜、乾物、漬物、靴、帽子、生活雑貨…… ありとあらゆる店が肩を寄せ合い、それぞれ軒先に商品を展開し、なんともカラフルだ。路地そのもの、街それ自体が市場になっているかのような景色に圧倒される。
買い物客と売り子のやり合う声、バイクの騒音、どこかから聞こえるネパールやインドのポップミュージックで、あたりはなんともやかましい。雑踏に気圧され、いくらか静かな路地に逃れると、小さなお堂の前で店を出していたチヤ(ミルクティー)の屋台のおばちゃんが微笑む。一杯いただくと、その甘さとスパイスの香りにほっと落ち着く……。
なんとも異世界だった。そして、これだと思った。日本とはなにもかもが違う街並みを歩き、その空気をいっぱいに吸い込むことが、僕にとっての旅なのだ。カトマンズはそんな気持ちをいまでも十分に満たしてくれる。コロナ禍を経ても、そこはなにも変わっていなかった。
もしかしたらパンデミックを機に、旅の醍醐味が失われてしまったのではないか。僕はそんなことも考えていた。しかしそれは、ネパールに限っていえば杞憂だったようだ。また旅の時代が戻ってきた…… 僕はそんな喜びに浸りつつ、カトマンズを歩いた。(つづく)
「越えて国境、迷ってアジア」は、アジアの国々を取材してきた1人のジャーナリストによるアジア国境越えルポだ。2022年まで「TABILISTA」で連載されていたが、「BRAVO MOUNTAIN」ではそのアーカイブをお届けしていく。※掲載情報は2022年10月取材時のものです。