■山城にとって要の存在“水の手”

登城口とは逆、松平城の南麓側へと下ってゆく

 道幅は狭く、右に左に折れ、虎口(こぐち)のように見えるが、どうなのだろう。麓まで半分ぐらいの位置まで下り、分岐を左へ。目指すべきは──。

竹やぶ脇の小道に「←井戸」の看板

 そう、水の手だ。籠城戦に欠かせないので、山城には水が必須。井戸以外にも、湧き水だったり、池や泉だったり。

 ただ、水の手は城内でもやや見つけづらい場所にあることが多い。谷戸にあったり、他の曲輪と離れていたり。縄張図に「#」マークがあると、探し当てたくなってくる。ヤブコギし、何度、迷子になったことか(あげく、結局見つからなかったりする)。おそるべし、水の手トラップ。

 それでも、見つけたときの喜びはひとしお。わずかな水でノドを潤し、英気を養った城兵の気分になる(実際に口にすることもある)。だから、わかっていてもトラップに向かってしまう……。

 幸い、松平城の井戸への道は、比較的明瞭。倒竹を乗り越えつつ進んでゆく。

※虎口(こぐち):曲輪の入口部分を狭くしたり、屈曲させたりして侵入を防ぐ構造

※谷戸(やと):両脇を斜面に挟まれた谷状の地形のこと

■水の手よ、お前はいったいどこに?

「松平城井戸跡」の石碑

 意外にあっけなく見つけられた。ビッシリとシダに覆われた背後の切岸、その頂部が主郭。往時はあそこから縄でも垂らして、直接運び上げていたのだろうか。それにしても、とんでもない切岸だ。

 真冬でもこれだけシダが茂っているということは、水が溜まる場所だということ。いかにも井戸があってしかるべきなのだが……。ないのだ。石碑には間違いなく「井戸跡」とあるのに。

 石碑の周辺をあっちへ行き、こっちを探りすること10分ばかり。ん? このくぼみはもしや?

シダの葉と葉の間の凹部。直径50cmほど

 周囲より地面の湿気も多いし、よく見ると側面に石積みも。間違いない。松平城の水の手、攻略セリ。しかしこれは真夏だと、シダに覆われて発見できなかったのではないか。

 井戸からは、南麓のどこかから主郭方面へ向かうルートはないか、と思っていたのだが、残念ながらそれは難しそう。なにしろ、落差10m以上はありそうな切岸だ。

井戸付近から見上げる主郭方面

 この急傾斜を直登するのは至難の業。たとえ城内からの攻撃がゼロだったとしても──。

 小規模な山城であっても、城攻めに油断は禁物。ショートカットを諦め、素直に神社脇からの登城路を進むことにし、来た道を引き返すことにした。

■松平城址縄張図

「松平城址縄張図」山頂部にあたる1が主郭、Cが井戸跡

■MAP 松平城跡(愛知県豊田市)

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