奥座敷とは、「一般の立ち入りが限られた環境で、気のおけない間柄の限られた客をもてなすための場所」という意味がある。

 鈴鹿山脈にも奥座敷と呼ばれる場所が存在する、それが「イブネ・クラシ」だ。

イブネは台地状の地形になっている(撮影:ブラボーマウンテン編集部)

 「イブネ・クラシ」は、それぞれ1,160mと1,145mの別々のピークではあるが、地続きで近いこともあり、総称してこう呼ばれることが多い。

 それぞれに名前の由来として語られているのが、「イブネ」は伊船と書き、山容が船を伏せたような形をしていることからつけられた、という説がある。「クラシ」はクラシシという、カモシカの別名の意味からきているようだ。

 では、なぜこの場所が登山者を惹きつけているのか。

■イブネ・クラシが登山者を惹きつける2つの理由

登頂した誰もが、ここは山の中なのか? と疑念を抱く、イブネはそんな場所だ(撮影:ブラボーマウンテン編集部)

 1つは、辺り一面に広がるコケの大地だ。鈴鹿山脈は笹原と樹林が山域の多くを占めているが、イブネ・クラシの雰囲気はまさに「異質」という言葉がふさわしい。まるで別世界に紛れてしまったかのような、コケの絨毯が登山者を迎えてくれるのだ。

ここまで来なければ見れない景色を見るのも、登山の醍醐味だ(撮影:ブラボーマウンテン編集部)

 この場所は眺望もよく、鈴鹿の雄大な景色を眺めながらコケの絨毯に寝転ぶと、山の中にいることを忘れてしまうような感覚を味わえるだろう。

クラシの山頂は木々に覆われている(撮影:ブラボーマウンテン編集部)

 イブネから歩くこと10分ほどでクラシに到着するが、イブネとは対照的に木々に覆われ見通しもよくないため、多くの登山者はイブネを目的地として選ぶことが多い。

 イブネ・クラシが登山者を惹きつけているもう1つの理由が、到達するまでの所要時間にある。

 イブネ・クラシ登頂にはいくつかのルートがあるが、どこから登り始めても片道で4時間以上を要し、非常に登りごたえのある場所だ。

 これだけの時間を要すること、容易に行けないことが、多くの登山者の挑戦心を掻き立てているようだ。