長野県塩尻市と辰野町にまたがる霧訪山(きりとうやま)は、標高1,305mの低山ながら、北・中央・南の日本三大アルプスをはじめ、八ヶ岳や御嶽山などを一望できる絶景の山だ。春から初夏には、山頂付近にオキナグサやカタクリが咲き、大芝山への縦走路ではニリンソウの群生も楽しめる。信州の名峰と花々を一度に味わえる、贅沢な周遊コースの魅力を紹介していきたい。
■山ノ神自然園から入山
霧訪山の主な登山道は、北麓の「下西条本コース」、南麓の「小野コース(通称かっとりコース)」、善知鳥(うとう)峠からの「中央分水嶺コース」の3つがある。このうち、中央分水嶺コースは森林整備のため、現在は通行止めになっている(令和7年7月~令和12年6月30日頃まで通行止め予定)。
今回登った下西条本コースの出発点は「山ノ神自然園」。約20台の無料駐車場と簡易トイレが完備されており、登山の拠点として利便性が高い。ここは登山の拠点としてだけでなく、矢沢川沿いの森に遊歩道が敷かれた癒しの散策スポットとしても親しまれている。
■登山口までの癒しの森を進む
駐車場には「地元のボランティア」だという男性がおり、ルートの説明や、花が見られるスポットを教えてくれた。その方に聞いた話によると、霧訪山の山麓には地区ごとに「山ノ神」とされる神社が祀られ、このルートの途中には雄床山神社(おとこやまじんじゃ)があるという。
登山口に向かう道すがら、雄床山神社にお参りすると、鳥居をくぐった石段の先の大きな岩の下に祠が祀られていた。また、登山口に向かう途中にはエメラルドグリーンに輝く「たまらずの池」があり、春の信州らしい風情を味わえる。
■つづら折れの急坂を登る
山ノ神自然園から15分ほど歩くと登山口に到着する。「霧訪山登山口」と記された木の道標の下には「12曲り坂」と小さく手書きの添え書きがあった。その名の通りつづら折りの急坂が続くが、地元住民の手で20年以上の間、整備され続けてきたという道はとても歩きやすい。
尾根に出ると傾斜が緩み、大きな鉄塔が立つ広場にたどり着く。視界が開けたこの場所は、息を整える休憩スポットとして最適。さらに登り進むと、登山道沿いには鮮やかな赤紫色のミツバツツジが咲き、疲れを癒してくれる。標高を上げるにつれ膨らみはじめたつぼみも多くなり、まだしばらくは花の見ごろを楽しめそうだ。
鉄塔からさらに進むと、大芝山からの縦走路と合流する「ブナの別れ」に到着する。ここから霧訪山の山頂を目指すと、すぐに道が二手に分かれる。山頂まで一気に直登する急峻な「男坂」と、斜面をジグザグに巻いて進む緩やかな「女坂」だ。
この一帯はカタクリの群生地として知られ、特に女坂は、足元の花々を愛でながら歩くのに最適なルート。今回は、登りに男坂を選んでひと息に山頂を目指し、戻るときに女坂を通って可憐なカタクリを心ゆくまで堪能するプランを選んだ。
■山頂は圧巻の大パノラマ
ラストスパートとばかりに、ひと踏ん張りして急な男坂を登ると、突如360度の大パノラマの山頂に着く。そこは日本三大アルプスを同時に見渡せる贅沢な展望地。東には横に長く連なる八ヶ岳連峰、西には山影からのそりとピークを現す威風堂々とした御嶽山や乗鞍岳など、信州の名峰が一堂に会している。
山頂には山名や方位が記された山座同定盤(さんざどうていばん)があり、これを頼りに、「あの三角形の山が常念岳」、「目を凝らすと穂高連峰の槍ヶ岳も見える」などと、山を探すのが楽しい。この日は春の陽気で遠望は霞んでいたものの、空気が澄んだ日なら富士山まで見渡せるようだ。
山頂にはオキナグサが咲くポイントがあり、ロープで仕切られ保護されていたが、今回花を見ることは叶わなかった。コース途中で会った地元登山者によると、オキナグサは霧訪山のシンボルのような花だったが「乱獲されて今は希少になってしまった」のだとか。現在、地元の有志による手厚い保護活動が続いているが、それでも「咲いていたはずの場所から花がなくなる」ことがあるそうで、保護の難しさに心が痛んだ。