■ノリの悪い鬼アマゴ!

美しい渓谷。せせらぎの音を聞きながら、その場に身を置いているだけで幸せなひととき

 期待が高まる3日目。若干の濁り、水量も平水より多いが、むしろ好条件と楽観的な釣り人発想でロッドを振る。川のコンディションが戻ったせいか、同じ川だと思えないくらい、次から次へとアタリがある(とは言っても30分に1回程度だが)。一発大物狙いでティペット(ハリス)も太め、フックも大きいからハリがかりしないのか、そもそも流し方が悪いから魚の食いが浅いのか。試しにティペットとフックをサイズダウン、細軸のものに変えると何匹か小さなアマゴたちが釣れた。けれど狙っているのは彼らの上の兄弟か、そのご両親だ。

 沈めたフライを誘うように浮上させると、大きな影が水中から急速浮上して水面を割った! 空振りしたのか、フライを見切ったのか、見せつけるように宙に舞う姿は、まさしく憧れの鬼アマゴ! 鈍く光る魚体が残像で網膜に残る。ようやく出てくれたのにノリが悪い。しばらく夢に出そう……。

■釣れなかった分、ますます来年が楽しみに!

もう少し大きなアマゴも釣れたのだが…… 大きくなったらまた会おう!

 川の中心で流れを分断するように立つ岩の巻き返し。立ち位置を模索しながら複雑な流れの中にうまくフライを吸い込ませ、抜き出した瞬間に浮上してきたアマゴがヒット! 鬼アマゴではないが、30cm近い良型で嬉しい。けれど浅瀬で写真を撮ろうとした瞬間、するりと身を翻して流れに戻っていった。いつの間にかハリが外れていたらしい。いわゆるオートリリースだ。

 結局、写真に残ったのはリリースサイズのアマゴのみ。小さくても幅広の体躯にピンと張ったヒレ。(若干負け惜しみだが)鬼アマゴを彷彿とさせる。将来有望な魚体、大きくなって再び僕のフライに出てくれることを期待したい。念願の鬼アマゴには今シーズンも出会えなかったが、その分来年の楽しみが増えた。

風が谷間を優しく吹き抜ける。舞い散る葉に秋を感じる

 流れに一礼して今シーズンを終了とした。ただこれでは終わらなかった。車に戻り、ソックスを脱いだら血まみれ……。遠山川一帯で夏は頻繁に見かけるヤマビルだ。湿った山道でも見かけなかったので、秋近いこの時期は大丈夫だと油断していた。(強がっていても)釣れなくて意気消沈を隠せない僕と対照的に、血を吸ってたっぷりと膨らんだヒルは満足気だった。