長野県では朝晩はぐんと気温が下がり、秋の訪れを肌で感じる季節になってきた。そろそろ今年の紅葉狩りはどこへ行こうか、計画を練りはじめたい。

 標高差がある土地柄、長期間紅葉が楽しめるのが長野県のいいところ。標高の高いところから徐々に草木が色づき、下へ下へと鮮やかな色が降りてくる。その最中の山肌のグラデーションはとても美しく、山道を車で走るだけでも楽しい。

 さまざまな見どころの中でも、今回はドライブがてらに行ける茅野市の紅葉スポットを紹介する。

■静寂の中にある、東山魁夷「緑響く」の世界

 標高1,500mの森の中、奥蓼科にある御射鹿池(みしゃかいけ)。八ヶ岳の冷たい水を稲作に使えるようにするために、昭和初期に作られた農業用のため池だ。風のない日には周囲の木々が湖面に反射して水鏡になり、人工的な池とは思えない幻想的な雰囲気を醸し出す。

 日本を代表する画家のひとりである東山魁夷(ひがしやまかいい)はこの原風景に魅せられ、御射鹿池をモチーフに『緑響く』を描いた。のちにこの作品が彼の代表作のひとつになったことも相まって、今では多くの観光客がカメラ片手に訪れている。

御射鹿池の水鏡を一目見ようと、大勢の人が訪れる(撮影:プリチャード香里

 東山魁夷が描いたのは緑萌える季節だが、秋の御射鹿池も趣がある。周囲一帯カラマツが黄金色に染まる黄葉は、赤く色づく紅葉とはまた違い魅力的。湖面の反射で静寂の中に黄葉をはじめとした、自然の大胆なコントラストがくっきりと浮かび上がる様は見事だ。

望遠レンズを使って一部を切り取っても絵になる御射鹿池(撮影:プリチャード香里