眼下に広がる雲海を眺めながらの稜線歩きは、登山の醍醐味のひとつ。暑い下界を忘れて、高山植物の花々を愛でるひととき、山中で泊まればご来光や夕日を楽しむことができる。

 麓から歩いて標高を上げるのも登山の魅力だが、ロープウェイ・ゴンドラ・リフトなどの索道を利用することで、時間と労力を減らして高い山々を楽しむこともできる。ただしメリットだけでなく、注意するべき点もある。

 索道が豊富で選択肢が多い北アルプス、中央アルプス、八ヶ岳エリアから、この夏行きたい魅力的な高山ルートを紹介しよう。

八ヶ岳は、夏沢峠を境に南北に分かれて特徴が異なる山岳エリア。南は主峰赤岳を中心に侵食作用により切り立った峰が連なる。北は溶岩台地で覆われ、山頂部は比較的なだらか。黒い地面の上に灌木や針葉樹林が広がる

■ロープウェイを使う上での注意ポイント

・麓との急激な寒暖差に気をつける
 標高が100m上がるごとに通常気温は約0.6度下がる。1,000m上がれば麓との気温差はおよそ6度。加えて山の上は遮るものが無ければ風も強く、体感温度はさらに低くなることを考慮し服装を考えよう。

・身体の準備を整える
 乗り物で一気に標高を上げると、身体が環境に順応するのに時間がかかる。個人差や体調もあるが、標高2,000mでも高山病の症状が出る場合もある。すぐに動きだすのは危険だ。様子をみながら、少し休んでから歩き出そう。

・そこから先は手軽ではない
 ロープウェイは高い場所へ行くことを可能にしてくれるが、山の上はリスクに満ちている。正しい知識と経験、ルートに応じた体力は必要。装備も整えなければいけないことを念頭に置きたい。

■CHECK POINT  ロープウェイを使うメリット

1. 時間が短縮できる
 ロープウェイなどの索道を使えば、標高差500mを5~7分程度で上がることも可能だ。それに伴って距離も稼げるので、歩けば数時間かかるような道のりを短縮できる。その分行動時間が増えることで、ルートバリエーションの幅も広がるのだ。

2. 体力温存につながる
 長い距離や急登を歩かずに済めば当然体力の温存につながる。ロープウェイで上がった先からの山歩きも快適で楽しい。片道だけ、例えば「登り」に使うと、山登りのオイシイところを気軽に味わえる。疲労も溜まり、転倒や道迷いなどの事故の多い「下山」でももちろん有効だ。

3. 空からの景色を楽しめる
 搬器の足元に広がる森や川、間近に迫る山肌など普段見られないアングルの景色が広がり、ロープウェイに乗ること自体が楽しみのひとつとなる。片道数分の貴重な空中散歩の時間も余すことなく楽しもう。

■八ヶ岳 南北で異なる顔を持つ

●池と溶岩台地と深い森、多彩な登山が楽しめる

 山梨県と長野県にまたがって位置し、北部の蓼科山から南部の編笠山まで南北におよそ25kmの長さで連なる八ヶ岳。中心部にある夏沢峠を境に北八ヶ岳、南八ヶ岳と分けられる。

 主峰は標高2,899mの赤岳。富士山と日本アルプスの山々を除いて最も高い。その稜線の結ぶ先に、阿弥陀岳、横岳、硫黄岳と威風堂々とした山容が並ぶ。日本百名山に記載されている「八ヶ岳」とは、主にこの赤岳周辺の南八ヶ岳のことを指している。百名山には、ほかにも北八ヶ岳の蓼科山が選ばれている。

 南と北で山の表情が異なるのが特徴だ。北八ヶ岳エリアでは標高2,480mの北横岳を中心になだらかな峰が多い。溶岩流や溶岩台地を残して、黒くゴツゴツした岩が転がる地面に灌木や針葉樹林が生い茂る景色が広がる。ルート上に大小の池が点在し、池を巡るのも魅力の一つ。

 一方、南八ヶ岳エリアは麓の植生が多様で深い森林帯に覆われ、長いアプローチを経た先に聳え立つ岩稜帯がある。赤岳山頂直下は急登や鎖やはしごが連続し、本格的な登山が楽しめる。