秋田と岩手の県境に位置する「薬師岳(1,218m)」。山頂の北側に広がる草原は薬師平と呼ばれる。一帯は高山植物の花が咲き乱れる雲上の楽園として、多くの登山者を楽しませている。

 高原がすっかり夏の景色となった7月上旬、「ニッコウキスゲ」の花の群落が見頃を迎えていた。ニッコウキスゲは濃い黄色の花を咲かせるキスゲ亜科の高山植物で、日本海側や北海道では海岸線でも育つ。正式名称は「ゼンテイカ」。

山の斜面を埋め尽くすような密度で咲くニッコウキスゲ。登山道も埋まりそうなほどだ

 群生地は全国随所に見られるが、薬師平は飛び抜けて花の密度が高い。遠目にもわかるほど、ギュッと凝縮した黄色が草原の緑にコントラストをつけている。ニッコウキスゲの花の隙間を埋めるように、イブキトラノオが負けじと白い花穂を風にたなびかせている。その他にも多くの花々が短い夏を謳っているので、花を楽しむにはまさに絶好のタイミングだ。

なだらかな稜線を辿る雲上の登山道は、和賀岳へと続いていく

 なだらなかな稜線が、和賀岳へと向かって回り込むように続いていく。南に目を向けると緩やかにアップダウンを繰り返し真昼山へ。雲上の世界は気持ちまで解放してくれるのだろうか、「どこまでも歩いていきたい」そんな思いすらしてしまう。のんびりと休憩していると山肌を撫でるように吹く、優しいそよ風が心地よい。空にはトンボが大量に飛んでおり、そのおかげか、ブヨやアブなどの刺すような虫が少なかったのも幸いだった。

 今回は秋田県側、真木渓谷(斉内川)に沿った真木林道からアプローチした。未舗装の部分が多く、急な山肌に切り開かれた道である。落石や崩壊、転落の恐れも多いにある車道なので運転は十分に気をつけて。登山口から薬師岳山頂まではおよそ3時間の山歩きだが、蒸すような暑さが随分とこたえた。

滝倉の一段下の渡渉箇所。豊かな森が蓄えた水が沁み出している

 それでも、ブナの巨木が見守る豊かな森は地形的にも変化に富んでおり、飽きることなく登山を楽しめる。途中にも多くの花々が咲いているので、余裕を持った山行プランでゆとりをもって楽しみたい。