■美しい清流と縄文杉のような岩の門

 深い渓谷区間を抜けると、先程までの穏やかな渓相が一変し、岩ゴツゴツの荒々しい瀬が現れる。スリル好きの人にはたまらないエリアだが、僕はビビリなのでここはポーテージ(ボートを抱えて陸上をいく)で越えていく。

 するとその先には、まさに野田さんが「水が透き通りすぎていて、川に水がないのかと思った」と言った、目を見張るような美しい清流の世界が待っていたのだ。

ただそこにいるだけで幸せ。そんな川はそう多くない

 そこからしばらくは、そんな夢のような清流区間と、ゴツゴツ岩の荒々しい区間が交互に現れる。副交感神経と交感神経が交互に刺激され、猛烈にストレス緩和効果のある川である。

 やがて那比川合流手前に差し掛かると、巨大な岩の門のような場所に行き着く。山門の仁王様のように佇むその巨岩を下から眺めると、まるで屋久島の縄文杉を仰ぎ見るかのような迫力がある。

勝手に「縄文岩」と命名。陸上からは見られない光景だ

 縄文岩の門を越えていくと、やがて亀尾島川は那比川へと合流する。そこからは少し川幅が広がって渓相も穏やかになり、何度か瀬はあるが、約2kmに渡って比較的のんびりとした川下りを楽しむことができる。

 長良川合流手間に差し掛かると巨岩が増えてくる。その間を縫うように進み、最後にゴツゴツとした浅瀬を越えると長良川へと合流する。

長良川合流後に那比川を振り返る

 深い渓谷の亀尾島川から始まり、穏やかな渓相の那比川を経て、一気に開放感ある大河・長良川へ。清流や渓谷美の見所も多く、わずか4kmの間に川のダイナミズムを感じられる素晴らしい区間だ。

 今回は長良川合流後に旅を終えたが、野営道具一式を積んで、そのまま長良川を旅するのも面白いだろう。

■ダム建設で失われていく亀尾島川

 そんな素晴らしい亀尾島川だが、上流の内ヶ谷ダム建設の影響で年々その美しさに変化が現れている。一見するとまだ美しい亀尾島川も、工事による土砂の流入で大雨が降れば川はおおいに濁り、回復の速度も遅くなった。砂地化が進むことで岩が隠れて水深が浅くなり、魚は減少して、良質な苔が豊富に食べられないアユは小ぶりになっていく。

 内ヶ谷ダムは全国的に知名度が低いことと、かなり山奥で工事が行われているため、人々の関心が及ばないのが実情だ。ダム撤去の流れが世界の潮流の中、この話を聞いたときには「昭和か!」と驚いたものだ。主に治水のためのダムということで賛否両論はあれど、人間都合の目線を外して自然の立場から見ると、論じる余地もなく不要なものだ。これだけの豊かな川を失ってまでの治水効果とは、一体どんなものなんだろうか?

 ダム完成後、かつて野田さんが夢中でアマゴを追いかけた世界は、本当のお伽話になる。内ヶ谷ダムは、令和7年に完成予定である。