「山口の日本海側、抜群に面白いから遊びに行ってみなよ」

 古い外遊び仲間から山口県の阿武町をすすめられたのは昨年の夏のこと。正直なところ、アウトドアのフィールドとして山口県を意識したことがなかったので意外な思いがした。清流・錦川、カルスト台地の秋吉台。その次は……思いつかない。山陽新幹線も中国道も山陽道も山口県の南側を走るから、日本海側がどんな風景なのか知らないのだ。

 しかし、阿武町という名前には覚えがあった。ミサイル防衛システム「イージス・アショア」が計画されたときに候補地となり、いち早く反対を表明したのが阿武町だった。町の人口はおよそ3000人。地図を見ると阿武町はぐるりと萩市に囲まれている。ミサイルを断り、市町村合併もしない。国の施設を受け入れて収入増を図るよりも町の安全を取る。きっと、独立独歩の精神をもつ町なのだろう。

■澄んだ水に渦巻く魚群!  川も海も魚だらけ

 阿武町をなんの予備知識もなしに訪れて驚いた。外遊びのフィールドとして素晴らしかったのだ。

 まず、海が頭抜けている。水は澄んでいるし、そのなかには驚くほどの魚が泳いでいる。海水浴場の目の前の海をキジハタや回遊魚が泳ぎ、堤防で釣り糸を垂れればアジが鈴なりについてくる。

海岸線が入り組み、海は穏やか
鈴なりのアジ。夕方には町の人が堤防を訪れて晩のおかずを釣って帰る

 海に流れ込む川もいい。流域に人家が少ないから、渓流の水質のまま海へと注いでいる。橋の上から川を覗きこむと、どの川でもアユがキラキラと光を照り返している。河口の流心には大きなスズキが定位している。日本の川の原風景が、そのまま留められている。

絵に描いたような日本の里川。生活排水の流入が少ないから、河口近くでもこの水質
瀬に立ち込んで網を使うと、プリプリのアユが飛び込んだ。汚れを感じさせない爽やかなスイカのにおい(アユにはスイカに似た香りがある)

 船に乗って海に出ると、圧倒される高さの美しい断崖が続いていた。この一帯の風景は「阿武火山群」が作り出したもの。地質上の価値を評価され、萩ジオパークにも指定されている。阿武町の沖には火山が作り出した小島が点在しており、地元のアウトフィッターがこの島をめぐるシーカヤックのツアーを催行しているという。

阿武町の海岸線はすべて「萩ジオパーク」の指定地になっている。船でしかアクセスできない浜や海蝕洞が続く第一級のカヤックのフィールドだ

 北海道から沖縄まで、有名なフィールドをいくつも見てきたけれど、山口県の北側はそのどこにも引けを取らない。ただ、知られていなかっただけなのだ。