■キャンプを目的にしないキャンプ場!?
そんな山口県阿武町に、2022年3月「ABUキャンプフィールド」が誕生した。コンセプトは「キャンプを目的としないキャンプ場」。施設の監修を務めたのはスノーピークだという。
“キャンプを目的としない”と言いながら、施設も環境も充実している。サイトは日本海に面しており、海までは徒歩0分。ぱっと見はいわゆる高規格なキャンプ場だ。
キャンプ場は温泉とレストランを併設する「道の駅阿武町」にも隣接しているので、野菜、魚、肉といった地域の新鮮な食材も手に入る。いったい、これで「キャンプを目的としない」とはどういう意味なのか。
「それは、阿武町に残る豊かな森・里・海を遊ぶ基地として、このキャンプ場を位置付けたからです。阿武町の魅力は海と山の自然と、そこで育まれてきた暮らしの技術。キャンプ場としての機能は充実させつつ、町の文化と自然を体験するためのベースキャンプとしてデザインされています」
そう話すのは田口壽洋さん。アウトドア産業から農産物の生産へ、さらに自伐方型林業へと、働く場をより深い自然へとシフトしてきた田口さんが「日本でもっとも遊べるフィールド」と感じたのが、ここ阿武町だった。さまざまな現場を知る田口さんと、キャンプ場の立ち上げを考えていた町がたまたまマッチングし、企画から立ち上げまで伴走してきた。
■キャンプ場をベースにして人をつなぐ
「とくに力を入れているのが自然と生活をつなぐプログムです。阿武町の農林水産業と協働して、町のなりわいを体験できるプログラムを用意しています」
体験プログラムのなかでも特徴的なコンテンツが、チェーンソーを使ったスウェーデントーチづくりと海士体験(夏季に開催)、魚捌き体験だ。どれも町に住むプロの林業家と漁師が講師を務める。ほかのキャンプ場ではできない体験を通じて、阿武町の自然と人、なりわいを知ってもらう狙いがあるという。
もちろん、プログラムに参加しなくても阿武町の自然は楽しめる。キャンプサイトの目の前の海ではアジが入れ食いで、そのアジを泳がせればアオリイカも釣れる。5分ほど車を走らせれば、幼児を安全に遊ばせられる海水浴場もある。道端のクヌギにはベタベタ甲虫がついている。子どもの心を躍らせる遊びがキャンプ場周辺にそろっている。
料理が好きな人なら、道の駅のラインナップに興奮させられる。キャンプ場隣の奈古港から運び込まれる魚は鮮度抜群。生きたまま水揚げされ、数十分後には売り場に並んでいる。小アジはなんとワンパック50円(!)から。いわゆる未利用魚(一般流通には乗りづらい食用魚)も並ぶので、魚好きは道の駅と水揚げの見学できる港とキャンプサイトで遊びが完結してしまう。
道の駅には、阿武町周辺でしか生産されず、町周辺でしか手に入らない「無角和牛」も並ぶ。手ぶらで訪れてもキャンプ料理のメインディッシュに困ることはないだろう。
今後、ABUキャンプフィールドは地域のアウトフィッターとの連携や体験プログラムのさらなる充実を図っていくという。日本のアウトドア界において長く空白地帯だった山口県の日本海側だが、一躍人気のフィールドにおどり出るかもしれない。
ABUキャンプフィールド(アブキャンプフィールド)
山口県阿武郡阿武町奈古2248-1(道の駅阿武町隣接)
TEL. 08388-2-3000