■愛知県にエキノコックスが定着した!

 10月12日付けの福井新聞が『寄生虫「エキノコックス」、愛知県で犬の感染相次ぐ。人体に入ると重い肝機能障害』という見出しで衝撃的なニュースを報じた。

 同紙の報道によれば、本来は北海道にしか見られなかったエキノコックスという寄生虫が、愛知県の知多半島で捕獲された野犬から検出される事例が相次ぎ、国立感染症研究所が知多半島でエキノコックスが定着したとの見解を発表した、という。

 エキノコックスという名前を耳にしたり、「沢水が飲めなくなる」、「動物に触れなくなる」などの断片的な情報をSNSなどで聞いたことはあっても、どういった寄生虫なのか詳しく知らない方も多いだろう。今後は本州でもアウトドアでは気をつける必要がでてくると思われるエキノコックスについて、医師に解説してもらった。

■今回解説してくれるのは?

 今回お話を聞いたのは、北海道在住の石井陸医師。石井医師は北海道で長く登山やキャンプに親しみ、普段のアウトドアでもエキノコックスに気をつけているという。そんな石井医師にエキノコックスについて、アウトドアで気を付けるべきことについて聞いてみた。

 石井医師(以下、石井)「今まで北海道にしかいなかったエキノコックスが愛知県で定着したというのは衝撃的なニュースでした。北海道では馴染みのある寄生虫で、子供の頃からその対策を教えられてきますが、それ以外の地域にお住まいの方はあまり詳しくないと思います。恐ろしい寄生虫ではありますが、十分な対策をすれば防ぐことができます」

■そもそもエキノコックスとは?

 石井「エキノコックスとは寄生虫の一種で、北海道にいるのは多包条虫(たほうじょうちゅう)という種類です。もともとは北海道にもエキノコックスは存在していませんでしたが、20世紀に入り外国との交流が盛んになり流入したと考えられています (※1)。

 エキノコックスは本来、キツネや犬、ネズミを宿主として生きている寄生虫です。ネズミの中でエキノコックスの卵が孵化して幼虫となり、キツネや犬がそのネズミ食べることでエキノコックスに感染します。

 幼虫はキツネや犬の腸の中で成長して成虫となって卵を産み、フンと一緒に排泄されます (※2)。キツネや犬にはほとんど症状が出ませんが、本来の宿主ではない人間がエキノコックスに感染するとさまざまな重い症状を引き起こします」。

エキノコックスの生涯と感染経路

■エキノコックスの感染経路と症状

 石井「エキノコックスはキツネや犬のフンに含まれる虫卵を、水などを介して口から摂取することで人に感染します。しかし、エキノコックスはヒトの体内では成虫まで成長できないため、人から人へ感染することはありません。また、感染してもすぐに症状は出ず、10年程度の潜伏期間があります。

 感染したエキノコックスは肝臓に寄生し、嚢胞(のうほう)という袋を肝臓に作ります。この嚢胞が肝臓を圧迫することで、腹痛、黄疸、肝機能障害を引き起こします。末期になると脳に転移することもあり、その場合は意識障害やけいれんを引き起こします。エキノコックスを放置した場合、90%以上の方が亡くなります。

 キツネや犬には有効な駆虫薬(寄生虫を除去する薬)があるのですが、人に有効な薬は存在しません。唯一の治療法は嚢胞を手術で取り除くことですが、病気が進行していると取り切れない可能性もでてきます」