15年近く前に、アラスカの川下りに出かけた時のことだ。

 最終キャンプ地で出会ったスウェーデン人の2人が、クッカーに手を突っ込んで何かをしている。

「何やってんの?」

「ブレッドだよ」

 彼らはクッカーに入れた生地をひたすら一生懸命捏ねていた。これから焚き火でパンを焼こうというのだ。

焚き火でパンを焼く。想像しただけで美味しそうでしょう?

 我々は川下り旅の道中で毎日ご飯を炊き、パスタやラーメンを主食にしていた。パンも多少は食べたが、もちろん焼き上がった既製品を買うもので、アウトドアで粉からパンを焼くという概念が一切なかった。

「あ、なるほど。粉を持っていれば、現地で捏ねて焼けばいいのか」

 これは、新たな発見と驚きだった。主食が米の日本人と、パンが主食の欧米人との違いを感じた出来事であった。

■憧れのアラスカでの出会い

地図って、なんか高まりますよね

「いつか行ってみたいけど、俺じゃ行けないだろうな」

 若い頃の自分にとって、アラスカはまさに夢の国。人生で行けることになるなんて、当時は思ってもいなかった。

 しかし、アラスカ行きのチャンスは、突然やってきた。

 仕事仲間の誘いで、大型のラフトボートでサーモンで有名なコッパー川を10日ほど下ることになったのだ。星野道夫さんの本をいくつも読んでいた頃で、目の前には本の中にしかなかった世界が広がっていて、その感動と経験は今も忘れない。

 2年後。同じ友人からアラトナ川を下らないかという誘いが届く。アラスカ北極圏内の分水嶺「ヘッドウォーターレイク」からアラトナ川の終わり、コユクック川との合流点までの180マイル18泊の旅だ。

 この旅は、自分に「食」への新しいアイデアを与えてくれた。その1つが、冒頭の焼きたてのパンである。