■山での出会いと理想の山小屋

連休時期になると、常連さんもやってきて一気に賑やかになり、小屋は熱気を帯びる

 山小屋に宿泊するお客さんは、みな登山客だ。当然、山に登ることを目的で来ている。今はどこにいてもすっかり図々しい私だが、初めはどのように接客すればよいのかわからなかった。先に働いていた涼子さんは大阪出身の女性で、とにかく元気いっぱい。「歩荷もしてみたい!」とパワーが溢れ出ている。そうだ、最初は涼子さんの真似をしよう。疲れて着いた先では、元気に迎えてくれる人に会いたい。

 小屋に上がった翌日は「海の日」だった。夏山シーズンは海の日から始まる、と言ってもいい。朝からひっきりなしにお客さんがやってくる。スタッフ4人だけの小屋が、だんだん賑やかになる。それに伴って小屋が温められていく、なんとも言えないこの感じ。いいな。

 1日中動き回って、何回もご飯を炊いて、夕食の準備に片付け。すべての仕事を終えて、掘り炬燵の中に滑り込む(夏だけど山の夜は寒いのだ)。お疲れ様、とウイスキーをちびり。今日1日だけで、日常では待っていても会えないような、たくさんの人たちに出会えた。山にこんなにたくさんの人が来るなんて! 気づけば長くなった山小屋での仕事だが、ここまで続けてきたのは、この初日の体験がとても大きいように思う。

 今では自分でも山を歩くようになって、他の山小屋に泊まる機会も増えた。まだかな、そろそろ着くかなと歩いた先で「よく来たね、お疲れ様」と温かく迎えてもらえる。雨に濡れても小屋はいつも温かくて、美味しい食事が出てきて、ほっとする。帰りの電車や車の中で、山もよかったけど小屋での時間もよかったな、また行きたいな、そんな風に思いながら家路に着く。お客さんが笑顔で帰ってくれる。それが私の作りたい山小屋のゴールなのかもしれない。