雪解けを迎えた落葉樹林の林床に、春を告げる花が次々と咲き始めます。小さな黄色い花に元気をもらいました。藤原岳は、時間差登山(登山は「早出」早朝出発が基本ではありますが、コロナ禍と言うこともあり、フクジュソウなどの花が開花した状態を楽しめる、ゆったり時間帯にスタートして混雑を避けた登山もオススメです。)でも楽しめる花の百名山です。

■フクジュソウで人気。花の百名山、藤原岳

春の太陽の光を待ちわびているつぼみ。陽だまりに可愛らしい花が次々に咲きだしてきています
林床に咲くフクジュソウたち

 春の花である「フクジュソウ」や「セツブンソウ」を見ることができる藤原岳は、鈴鹿セブンマウンテン(※1)の一座。中京・関西圏では人気の「花の百名山」(※2)です。鈴鹿国定公園の北部、三重県いなべ市と滋賀県東近江市との県境に位置している山で、標高は1140m。

 今回は開花しているフクジュソウの開花を狙い、ゆっくり目の時間のスタートにしました。フクジュソウは早春2~3月頃、まるで雪解けを待っていたかのように花開きます。花の直径は3~4cm。黄金色のめでたい感じの花は、晴れた日にはしっかりと開いてくれます。曇りの日などは、花が大きく開いてくれないので、行きと帰りでは天気が変わると違った表情を見られるかもしれませんよ。

※1 南北に60kmも連なる大きな山域。印象的な巨石や豊かな高山植物など見所も盛りだくさん。日本二百名山の「御在所岳」。花の百名山として知られる「藤原岳」。他に「鎌ヶ岳」「竜ヶ岳」「雨乞岳」「入道ヶ岳」「釈迦ヶ岳」の7座です。
※2 田中澄江が、1980年に発表した随筆集。その中で紹介されている山、100座。その名のとおり、花を目的に登山するのに適した山。

麓から見た藤原岳。上部には残雪がまだあります

■ルートは大貝戶道(表道)をピストン

オニシバリ。小さな緑色の花が満開でした。鬼を縛れるほど樹皮が丈夫で千切れないという。雑木林、人工林、スギ林の斜面を徐々に登ると、林床下にひっそりと咲く植物もあります
ヤマネコノメソウ。花周辺がネコの目のように変化、種子が猫の瞳孔のようになります
セリバオウレン。葉がセリのように切れ込むのが特徴。ほんのり紫色の方が雄株です

 今回は残雪でも比較的歩きやすい、ポピュラーな大貝戶道(表道)を往復しました。 藤原岳登山口無料駐車場は50台ほど駐車でき、満車の場合は藤原岳観光駐車場も利用できます。登山口には、トイレ、休憩所、靴洗い場もあります。無料の休憩所で、ありがたく快適に利用させてもらいました。登山届を提出して出発! 神武神社の参道を歩き始めるとすぐに社殿が見えてきます。鳥居の右手の林内を進みます。足元では小さな植物たちが春の訪れをひっそりと告げてくれています。2合目には、苔むした不動尊像があり、この辺りから斜度も徐々に上がっていきますよ。

取材時、8合目から上にはまだ残雪がありました。雪が消えたあと、しばらく雨後はぬかるみやすいので、歩き慣れない人はスパッツやトレッキングポールも用意したほうがいいですね

 8合目は開けていて、ゆっくりと休憩できる場所もあるのでひと休み。右手から聖宝寺方面(裏道)からの合流点。ここから先は石灰岩の露岩が目立ちます。濡れると滑りやすく、地面もぬかるむので残雪時は焦らずゆっくりと歩きましょう。

■いよいよクライマックス! 山頂近くでフクジュソウに出会えました

山頂は360°の展望が広がる。この日は遠く白山方面まで望むことができました
9合目から先はカルスト台地特有の地形や石灰岩の露岩を見ることができます

 この辺りから灌木の根元付近にフクジュソウなど早春の花が見つけられます。注意深く探しながら歩いていると、ついに発見! 黄金色の見事な花が出迎えてくれました。9合目からも急坂が続きますが、可憐な花に元気づけられたので頑張れます。展望が開け、藤原岳山荘前に出ます。藤原山荘にはトイレがあるので助かります。 ここからは景色を楽しみながら、なだらかな稜線歩き。20分ほどで山頂に到着です。

 展望丘ではパノラマが広がります。 雨水などによる浸食された石灰岩特有のドリーネと呼ばれるすり鉢状の地形や凸地、羊の群れのような石灰岩柱カッレンフェルトが点在していて、カルスト台地の特徴がよく分かりおもしろいです。時間があれば天狗岩 1171mへも足を伸ばすと能登白山も見えますよ。

■環境の変化、変わりゆく山の景色

ササが衰退し、アセビが成長してきています

 20年ほど前は、藤原岳周辺の植生はササ原と灌木でした。それがニホンジカの食害により植生が大きく変化し、彼らが食さない植物が目立ち増えているように見えて残念でした。 東斜面は藤原鉱山があるため、⻑年の石灰岩採掘による山容の変化も見られる上に、外来種も繁殖を広げています。土壌の流出や浸食などで変わりゆく藤原岳。その変化を見るために、また訪れたいと思います。