■安全祈願のあとも残る「何か」の存在
どうにも説明のつかないことが続き、さすがに気になった清水さん。そんな中で、ふと「もしかすると、あれが原因では……」と思い当たることがあったそうだ。
「考えてみれば、現場で設営を始める際、お祓いやご祈祷をしていなかったんです。土地をいじるのだから、本来なら事前にやっておくべきでした。『この土地で亡くなった方々に失礼だったかもね』とスタッフたちと話し合い、神社の方に来てもらって安全祈願をしていただきました」
神事の日は朝から土砂降りの雨だった。だが安全祈願が終わると同時に、空が晴れはじめたという。その後は妙なトラブルもなくなり、夜中の嫌な気配も消えたそうだ。
筆者もあちこちで取材する中で、「地鎮祭などをせず工事に入りトラブルが続出した」という話をよく聞く。後から神事を行ったところ、不可解なことが落ち着いたと語る人も少なくない。
もっとも清水さんの語る場所では、その後も「何か」が存在し続けているらしい。
「観光に来たトンネルマニアの女性から、『すみません、変なことを聞きますけど、あのトンネルっていますか?』と尋ねられたことがあります。その方いわく、トンネルの中で座って休憩していたそうです。一通り雰囲気を味わったあと、立ち上がろうとしたら、『両肩を何かにガチっと押さえつけられて、すぐに立てなかった』と……」
他にも家族とハイキングに来た子どもから「向こうに何かいるよ。でも怖い感じじゃないよ」と話しかけられることも多いそう。子どもは大人よりも「視えやすい」ともいわれている。本当に、「何か」がいたのかもしれない。
■「化けて出ても悪いヤツじゃない」地元の人びとが大事にしていることとは
かつてにぎわった峠で起きたいくつもの怪奇現象。つい「事故で亡くなった人たちの魂がさまよっているのだろうか……」と考えてしまいそうになるが、清水さんはそれに待ったをかける。
「以前、地元の年配の方に『工事に関わった人は化けて出ても悪いヤツじゃないだろうから、怖がることない』と言われました。みんな、この土地の発展のために一生懸命働いていた人たちだから、誰かに危害を加えるような存在じゃないはずだ、と。僕はその言葉を信じています」
清水さんは観光案内をする際、慰霊碑の前を必ず通る。そして彼は観光客に向けて、毎回こう伝えるそうだ。
「たくさんの人が命を落としてしまった場所でもあるけれど、その歴史があっての今です。だから『ここを通る前に、みんなで手を合わせてから行きましょう』と案内しています。仮にほんとうに幽霊として現れていても、かつて生きていた人たちに変わりはない。怖いから避ける、暗い歴史だから語らないのではなく、事実をきちんと伝えて亡くなった方々に敬意を払うようにしています」
ただ怖い場所として消費するのではなく、土地にまつわる歴史を正しく知ること。山を訪れる際は、そこで何があり、どんな人たちが関わってきたのかを理解したうえで歩いてみてほしい。