■サン・ヴィジリオ山のシンボル、丘の上の小さな教会

 リフトを降りて登山道に出ると、早速分岐点の標識を確認する。ここから延びるトレイル ネットワークは全長100kmを超え、ハイカーやサイクリング客を静かな森、カラマツの草原、山の牧草地へと導いていく。このトレイルのルートからは、ドロミテ山脈と主要なアルプス山脈の絶景を常に眺めることができる。今回は標高約1,800メートル地点に広がる高原と、さらにその奥に佇む神秘的な黒い湖「ブラック・レイク(Lago Nero / Schwarzer See)」までのルートを歩くことにした。

 まずは最初のポイントであるヴィジリオ教会を目指して歩き出す。良く舗装された幅広い登山道はとても歩きやすく、周囲の山脈を眺めつつ軽快に進んでいくと、やがて牧草地の丘の上に小さな石造りの教会がポツンと建っているのが見えてきた。咲き始めたばかりの野生のクロッカスに覆われた丘の上に立つこの孤高の教会は、13世紀の文献には既に登場しており、何世紀もの間アルプスを行き来する巡礼者たちを迎えてきた由緒ある教会だ。その起源は石器時代に遡るといわれ、この教会はかつての異教徒の礼拝所の跡地に建てられた。教会が立つ丘の上からはチロルの山並みを一望できる絶景が広がり、ここだけ時が止まったかのような静けさに包まれていた。

きれいに整備された幅広い登山道はとても歩きやすい
 中世時代からこの地を行き交う巡礼者を受け入れてきた孤高の教会
丘の上には咲き始めたばかりのクロッカスの花々が敷き詰められていた
初期ロマネスク様式の教会には、当時の芸術の頂点をなす12使徒と磔刑の場面が描かれた14世紀フレスコ画が残されている