■静けさと穏やかさ、自然の息吹きに浸れる街歩き

 本格的な夏のバカンスシーズンにはまだ少し早いこの時期、春から初夏にかけてのメラーノは、色とりどりの花々と新緑に包まれる。まだ朝晩は肌寒さが残り、高地登山道へのリフトも運転が始まっていないが、ツーリストの混雑とは無縁の静けさと、気ままに散策できる自然美を独り占めできるのもオフシーズンだからこそ。メラーノの旧市街からは、周囲の自然と街とを繋いでいる遊歩道がいくつか延びていて、ふらりとハイキングを楽しむには最高のルートだ。

 まず最初に向かったのは、「シシィの遊歩道(Sissiweg)」。オーストリア皇后エリザベート、通称シシィ”が愛した小径で、彼女が滞在中にたどったルートを再現している。クアハウス(温泉保養施設)近くの川沿いから始まるこの遊歩道は、パッシリオ川を渡り、緑に包まれた静かな住宅街を抜けて、トラウトマンスドルフ城の庭園へと続いている。約3.5kmの散策路の道中にはシシィの彫像や記念碑が点在し、彼女がこの地に深く心を寄せていたことがうかがえる。優雅な気品を感じさせる並木道には、ツバキやライラックが咲き乱れ、春風が花の香りを運んでくる。

旧市街を横切る川に沿って、周囲の自然美を体感できる遊歩道がいくつか整備されている

中心部とトラウトマンスドルフ城の間を結ぶ約3.5kmの散策路「シシィの遊歩道」。散策のベストシーズンは4月~11月にかけて。歴史と自然が融合した散策路で、皇后エリザベートの足跡を辿りながら、約1時間のハイキングが楽しめる。車椅子でも利用可

 一方、もう少し高低差があっても大丈夫、という人には街を一望できる「タッペイナー遊歩道(Tappeinerweg)」がおすすめ。こちらは標高の高い斜面に沿って続く約4kmの遊歩道で、メラーノの市街地と山々、ブドウ畑を同時に望める絶好の展望ルートだ。石畳の道の両脇にはヤシの木やオリーブが茂り、標高にしては驚くほど温暖な植物相に驚かされる。

 春の陽射しのもと、赤や紫のツツジが鮮やかに咲き誇る様子は、まさに自然の祝福を受けているような気分になる。19世紀のメラーノの温泉医師であり、博物学者のフランツ・タッペイナー博士が、温泉療法を受ける人々のために、自然の中でリラックスできる場所を提供したいと考え、この遊歩道の構想及び建設を支援した。

 彼の名が付けられたこの遊歩道は、地中海性気候を活かした多様な植物が植えられており、オリーブ、ユーカリ、アガベ、パーム、シダなど、約400種以上の植物を見ることができる。道沿いにはベンチや展望台が点在しており、メラーノの街並みや周囲の山々、リンゴ畑のパノラマを眺めながら休憩することもできる。

タッペイナー遊歩道への入り口はいつくかあるが、旧市街の中心にある大聖堂の裏手の階段を
上っていくとそのまま遊歩道につながっている

メラーノから約1時間歩くと、南チロル村に出る

雄大な山の姿と新緑が眩しい。風光明媚な散策路の終点には、丘の上に聳えるチロル城が