■郷土料理「とうじそば」

冬は雪に包まれていて気づかないが、実は乗鞍高原はそば畑が多く、夏季はそばの花が咲いて白い絨毯のように広がっている。「番所(ばんどころ)そば」と呼ばれる在来種であるこのそばは、標高1,200m~1,500mと高い場所で栽培され、寒暖差によって独特の香りと風味があるのが特徴だ。
また、乗鞍高原では古くから「とうじそば」という郷土料理が食べられてきた。竹で編んだ「とうじ籠」に小分けしたそばを入れ、具材を煮込んだ熱々の鍋に投じてそばを温め具をからませながら食べるというものだ。

乗鞍高原にはいくつものそば屋が点在し、「とうじそば」を提供しているお店もある。県道沿いに建つ「そば処 合掌」もそのひとつ。つなぎ粉を使わない十割そばで、石臼で自家製粉したそば粉を毎日手打ちしている。「とうじそば」の具材には、山菜やきのこ、季節の野菜を取り入れており、残った鍋の汁にごはんと卵を加えて雑炊でシメることもできる。

■日本で一番空に近いバウムクーヘン屋

高原内では、風情ある郷土料理だけではなく、おしゃれなバウムクーヘンも味わえる。その店舗が、工房でバウムクーヘンを手作りしている「YUM YUM TREE(ヤムヤムツリー)」だ。標高1,300mに建つお店のキャッチフレーズは「日本で一番空に近いバウムクーヘン屋さん」。
もともと「テンガロンハット」というペンションだった建物の一部を、乗鞍高原ならではの新しいお土産を作ろうと、2015年に改装してバウムクーヘン工房をオープンさせた。


素材にもこだわり、松本市のブランド卵「あいだのたまご」と、厳選した長野県産の小麦粉、国産バター、水・牛乳は一切使わず生クリームのみと、高級材料をふんだんに使用している。

バウムクーヘンのタイプはソフトタイプとハードタイプの2種類。乗鞍高原の名を冠した天空バウム「ノリクラ」や、白樺樹液を少し加えたシロップを染み込ませ、パウダーシュガーを振って高原に自生する白樺の樹そっくりに仕上げた「ソフトバウム白樺」のようなソフトタイプのバウムクーヘンは、空気をたっぷり含んだふわふわ食感が楽しめる。
これに対して、本場ドイツスタイルでごつごつした木のような形のハードバウム「乗鞍高原のシラカバ」と「木霊の森のツリー」は、アーモンドパウダーをプラスして、さっくりもっちりの食感に焼きあげられていて大人気だそう。

ペンションだった「テンガロンハット」は、現在は「B&Bテンガロンハット」というゲストハウスとして営業。建物の裏手を流れる清流沿いに、バレルサウナを備えた「Sauna N+(サウナエヌプラス)」を完備し、宿泊者はもちろん、一般利用も受け付けている。
川のせせらぎに耳を傾けながらととのい体験ができ、通年営業しているので冬は雪景色の中でサウナを堪能できる。
こうしたさまざまな形で自然との一体感を味わえるのは、山深く、ノイズレスな乗鞍高原というロケーションならではだろう。スキー・スノーボード、スノーシューなどのウインターアクティビティを楽しみつつ、上質な温泉やこの土地ならではのおいしさをまるごと味わって、充実度の高い冬の旅を乗鞍高原で体験しよう。