もうすぐ春だというのに寒い日が続いている。こんな時は、健康的に軽い登山で血流をよくし、温まるというのもおすすめだ。
今回訪れたのは、兵庫県丹波篠山市に位置する盃ヶ岳(さかずきがたけ・別名盃山)。その名の通り、盃をひっくり返したような山容である。標高497m、多紀連山の中では比較的サクッと行ける手軽な山だ。
■盃ヶ岳にまつわるエピソード



戦国時代、盃ヶ岳には丹波国人衆の畑(はた)氏の「盃山城跡」があった。盃山城は、明智光秀の丹波攻めの際、明智軍の侵攻を周辺の国人衆に知らせるのろし場にもなっていたらしい。現在は眺望がないが、山頂が主郭であったようだ。
戦時中は「歩兵第七十連隊」「丹波の鬼」とも称された勇猛果敢な部隊が、厳しい山岳訓練に臨んだ場所でもあり、その頃は毎年初夏に「盃山早駆け登山競走」が開催されていた。山の登り下りで「23分8秒」というトップの記録が丹波地方のローカル紙・丹波新聞に記されている。なお、標準的なタイムは往復1時間40分弱。この記録がとんでもないタイムだということがよくわかるだろう。
では、比較的健脚である筆者はどこまで「丹波の鬼」の記録に迫れるだろうかと、登山口から「一人盃山早駆け登山競走」を開催した。しかし、わずか100mで息が上がり棄権。この疲労は下山の時まで引きずることとなった。筆者が歩いたタイムは往復1時間ちょうど。最初に走らなかったら、5分くらいはタイムを縮められたかもしれない。
さらに盃ヶ岳は、『ゲゲゲの鬼太郎』で知られる故・水木しげる氏とも関係が深い。一時期、市内で暮らした水木氏は、著書の中で妖怪「おとろし」(不心得者を見つけると上から落ちてきて驚かす妖怪)に山で出会ったと記しており、のちにその山は盃山と証言しているのだ。

歴史に名を遺す偉人、水木しげる氏でも不心得者だったというのが親しみ深い。筆者の場合、木の上から落ちてくる落雪には何度も遭ったが「おとろし」は落ちて来なかった。筆者は不心得者ではなかったのかもしれない。