■下山中、バス停まで残り40分の場所で遭難
2024年10月初旬の平日、Aさんは50〜60代の女性4人で京都の山に登っていた。時刻は14時過ぎ、バス停まであと40分ほどの場所を下山中のことだ。
突然、仲間の1人がスリップして尻もちをついた。何かにつまずいたわけでもなく、危険な場所でもない。立ち上がろうとするも、痛くて立てないと言う。地面は冷えるため、お尻の下にシートを敷こうとするが、彼女は痛みでお尻を持ち上げることすらできなかった。彼女は「ポキっという音がした、痛くて一歩も動けないから救助を呼びたい」とメンバーに相談。痛みは右足のふくらはぎだけで、会話はしっかりとできるため、14時半に本人が直接消防に救助要請した。
10月といえど、日中は汗ばむほどの陽気で全員のウェアは汗で濡れていた。しかし立ち止まった瞬間、急激に冷えてきたため、予備のウェアに着替え、さらに手袋やネックウォーマーを着用して、雨具を重ねて寒さに備える。ケガを負った女性にはAさんが携帯していたツエルト(簡易シェルター)を被せて、さらに保温する。
通報から1時間後の15時半、救助隊4名と2名の救命士が徒歩で現場に到着。痛みが強く、担架での搬送は困難と判断され、ヘリコプターを要請することに。その1時間後の16時半、救助ヘリが到着し、彼女は無事病院に搬送。彼女は螺旋骨折を負い、右足のふくらはぎ付近で骨が2本折れていた。骨がねじれるように折れ、骨折部分が螺旋状になることから螺旋骨折と呼ばれる。また、発症時に骨の折れる音がすることがあるらしい。
■14時半が当日救助可能なギリギリの時間
メンバーは救助要請をした14時半が、当日救助可能なギリギリの時間であったことを救助隊によって知らされる。もしも通報が遅れていたら、当日の救助は不可能とのこと。その場合、山中でビバーク(緊急に夜を明かす)することとなり、万が一翌日も天気が悪ければ、さらに救助が遅れる可能性があると伝えられた。
下山まで残り40分の場所。いつも登っている山で、道に迷ったわけでもなく難しい場所でもない。しかし、どんな場所でも動けなくなればビバークするしかないのだ。
遭難は必ずしも危険な場所だけで起こるわけではない。近所の山だから、よく知った場所だからと油断してはいけない。どんなときでも、万が一に備えることが、安全登山につながると感じた事例である。
■山岳遭難を防ぐために
100パーセント安全な登山は存在しない。しかし、しっかりとした登山計画を立て、十分な体力を養い、万が一に備えた装備を持っていれば遭難のリスクは最小限に留められる。
そして無理はしないこと。登山途中、体力、天候、装備に不安を感じたら無理せず引き返す勇気も必要だ。