登山を始めて少しずつ体力をつけ、憧れのアルプスに夏に登り「こんな素晴らしい世界があるのだ」と17年前の筆者はすっかり登山にのめりこんだ。
山岳雑誌を読みあさり、「アルプスは標高が高いから、夏が短い」ことも知った。では紅葉を見るなら、いつがよいのか。適期はその年の気温や天候などによっても違うが、だいたいいつ頃がよいのか。標高によっても違うだろう。とにかく一つひとつ登って、経験を増やすしかないと思った。
■友人の誘いで蓮華温泉へ
そんな筆者に友人が「蓮華(れんげ)温泉から白馬大池(はくばおおいけ)へ行きませんか」と誘ってくれた。白馬大池は、栂池(つがいけ)から長野県後立山(うしろたてやま)連峰の百名山「白馬岳・標高2,932m」へ向かう途中にある池だ。「白馬岳山頂まで行けばそれはそれで楽しいだろうけど、白馬大池まででも十分楽しめるから。それに山頂付近はすっかり冬が近づいているからね」と話す長野県出身の友人。さすが地元の人間は言うことが違う。
そんなわけである年の10月初旬に、筆者は蓮華温泉に向かった。
山小屋であり温泉旅館でもある白馬岳蓮華温泉ロッジは、白馬岳などへの登山口にあり、登山前後泊にも便利だった。
■夜間に蓮華温泉駐車場へ
仕事を終え、夕食をして車に乗り込んだ。関東から蓮華温泉までは5時間弱の道中だ。安曇野ICから北上し、道の駅を過ぎて林道を通り蓮華温泉に着く。ワクワクして眠れないが、しっかり歩くためには仮眠が大切だ。
朝日が出て歩き出すと、斜面からもくもくと湯気が出ており、湯気のすぐそばの斜面に湯舟が見える。脱衣所のない露天風呂、ここでは「野天風呂」と呼ばれている。筆者は今すぐにでも入浴したい欲望を一旦押し殺し、山へ向かった。
■錦秋の登山道
野天風呂の横を通り抜け、森の中を登っていく登山道は、すっかり秋の色に染まっていた。
「蓮華の森」と呼ばれる美しい木々の森を歩くこと約1時間半。見晴らしのよい「天狗の庭」に到着し、辺りを眺めると、雪倉岳(ゆきくらだけ)や朝日岳が秋の色に染まっているのが見えた。冷たい風が吹いていて、温かいコーヒーがとても美味しい。
■冬目前の白馬大池
天狗の庭から大きなダケカンバの道を1時間半ほど進むと、白馬大池にたどり着いた。夏の花盛りの白馬大池とは違い落ち着いた色合い。今にも時雨が降ってきそうな空の色も手伝って、これから来る冬を想像させる。
紅茶とはちみつの入ったパンで体を温めて、来た道を戻っていくと、高度を下げるにしたがって空が明るくなった。
秋の澄んだ日の光が鮮やかに蓮華の森を照らし出した。赤と黄色と緑、そしてダケカンバの白い幹がビビットな色合いだ。
遠く日本海まで見渡せる登山道を、気分良く蓮華温泉に向かい進んでいく。もうすぐ山登りが終わると思うと、早く温泉に入りたくなってきた。