青森県の津軽地方南部に位置する弘前市は、青森市、八戸市に次ぐ都市として県内三大都市のひとつとしてあげられる場所。見どころはやはり弘前城だが、城下町として繁栄してきた背景から歴史や伝統・文化が色濃く残っている。津軽地方の中心として栄えてきた、弘前らしさを味わえる“ふれあい街歩き”を楽しんできた。

■江戸時代の天守が残る「弘前城」

現在は本丸の中央部に移動されている弘前城の天守

 青森県の観光スポットを調べると、必ずといっていいほど名が挙がるのが弘前市にある「弘前城」だ。弘前市はこの城を中心に江戸時代から城下町として栄えてきた。

 ざっくりまとめると、戦国時代までの津軽地方は南部氏が覇権を握っていたが、その管理を任されていた弘前藩初代藩主である津軽為信(ためのぶ)が津軽地方を統一し、2代藩主の津軽信枚(のぶひら)が城下の町割りを完成させた、という流れとなる。弘前城を完成させたのも信枚の時代だ。

 完成当時は5層の大天守だったといわれ、落雷によって焼失してから200年近くも天守を持たぬ状態が続いたが、9代藩主の時代に幕府の許可を得て再建。それが現在の3層の天守だという。小ぶりに見えるが、日本で現存している12の天守のうち東北では唯一となるもの。今もなお“弘前のシンボル”として地元住民から親しまれている。

弘前のシンボル「弘前城」

 

■「弘前公園」をぐるりと散策

公園にはいくつも弘前城の門が現存。いずれも重厚で、写真の南内門もそのひとつ

 弘前城は、弘前藩を治めてきた津軽家の居城で、現在は「弘前公園」として整備されている。広い園内には、立派な門や櫓(やぐら)、堀やそれを渡る橋など、城の面影が随所に残り、ぐるりと散策を楽しめる。また、天守は石垣の上に建っていたが、現在は石垣修理のため本丸の平坦な場所に移動されている。移動場所もちゃんと考えられていて、晴れた日はちょうど岩木山が見えるのだとか。あいにく訪れた日は曇天で山は見られなかったが、本丸の中央にたたずむ天守と岩木山の風景は、石垣修理期間中だけ見られる特別なものになるだろう。

 また、弘前城は桜の名所として有名だ。園内には約50種類、2600本ほどの桜が植えられており、春になると、ソメイヨシノ、シダレザクラ、八重桜と時期をずらして桜の開花がリレーする。ソメイヨシノは病害虫に弱いとされるが、弘前公園には樹齢100年を超えるソメイヨシノが300本以上残る。これは、りんご栽培を参考に生まれた「弘前方式」という桜の管理法によるものだという。

弘前城は桜の名所

 

■弘前市内でレトロ洋館めぐり

外人教師が暮らしていた「旧東奥義塾外人教師館」。現在、1階では喫茶店が営業している

 弘前市は城下町として栄えた都市ではあるが、実は明治・大正期に建てられた洋館が数多く残り、レトロ&モダンな街並みを楽しめる。しかも、これら洋風建築が集まるのは弘前城の近く。弘前公園の「追手門」から出ると、そのまま洋館をめぐる町歩きに繰り出せる。

 まず向かったのは、「旧東奥義塾外人教師館」。明治初期、弘前では青森県内でもいち早く東奥義塾という私学校が開校し、その学校に招かれた外国人教師の住居として建てられたのがこの洋館だ。館内には時代を感じる家具や調度品なども置かれ、同時の外国人教師がここで暮らしていた様子をイメージできる。

 この洋館と隣接しているのが「旧弘前市立図書館」。赤いドーム型の屋根が特徴的で「こんなかわいらしい洋館が明治期の弘前にたたずんていたの?」と思うと感慨深い。建物の両側に八角形の双塔があるルネッサンス様式を基調とするが、なんとなく和の雰囲気も漂っている。また、昭和6年まで市立図書館として利用されていたという。

ドーム型の屋根やカラーリングがかわいらしいルネサンス様式の「旧弘前市立図書館」
弘前市内はレトロな洋館がいっぱい!

 

■ルネッサンス様式の洋館を見比べ

「旧弘前市立図書館」に比べて、「旧第五十九銀行本店本館」は重々しく威厳に満ちている

 「旧弘前市立図書館」などの洋館から歩いて3分の距離にあるのが「旧第五十九銀行本店本館」(青森銀行記念館)。この建物は、青森県では初となる、全国で59番目に設立された国立銀行の本店本館として造られた。「旧弘前市立図書館」と同じく、シンメトリー(左右対称)や調和を理想とするルネッサンス様式らしいデザインではあるが、銀行本店とあってこちらの建物は重厚感がすごい。

 弘前市に残る洋風建築の多くは、地元の大工棟梁、堀江佐吉の手によるものが多い。「旧弘前市立図書館」も「旧第五十九銀行本店本館」も堀江が手がけたもので、同じルネッサンス風の様式を取り入れた建物なのに、こうも印象が変わるのは驚きだ。特に「旧第五十九銀行本店本館」は、国の重要文化財に指定されている堀江の傑作のひとつ。弘前市内にはこうした洋館がいくつも点在し、歴史とロマンを感じながら楽しい町歩きを体験できる。

国の重要文化財の「旧第五十九銀行本店本館」