かつて、北アルプスの最深部・黒部源流部への最短ルートとして開拓された登山道「伊藤新道」。近年は廃道同然となり、長らく地図上から消えていたこの古の登山道が、この夏、40年振りに復活。本格的に再開通を果たした。
三俣山荘や雲ノ平山荘など、一部の山小屋スタッフが利用する道として知る人ぞ知る存在だったが、ここ数年、メディアを通してその存在が知れ渡ると、再開通を望む声が高まっていた。2022年に実施したクラウドファンディング「伊藤新道復活プロジェクト」では、974人から1300万円以上もの支援を集めたニュースも記憶に新しい(支援金は吊り橋の整備などに使われた)。
この道ならではの魅力と、通行時の注意点について、改めてまとめてみよう。
■「自力で判断する」のが伊藤新道の歩き方
伊藤新道を再開したのは、「我が家のアイデンティティの一つとして、いずれは復活させたかった。そして、今こそ登山の新しい側面を見せてくれるこの道のポテンシャルを多くの人に体験して欲しかった」からと、三俣山荘、水晶小屋の経営者であり、プロジェクトを主導した伊藤圭さん。
野湯の匂いに満ちた美しいブルーの沢、ダイナミックな赤岩、深い緑の原生林など、伊藤新道には他では味わえない自然体験が溢れている。反面、限りなくバリエーションルートに近い道なので、通行するにはリスクが伴い、それなりの装備と経験、知識が必要不可欠となる。
「何度も渡渉があるので、湯俣川の水量の見極めが一番のポイントになりますが、ルートファインディングも含めて、“登山者各自が判断できること”が大事です」
伊藤新道は、環境へのインパクトを最小限に抑えるため、命の危険のある箇所を必要最低限の範囲で整備している。水量など最新情報はHPに随時更新中。危険箇所などを掲載した詳細地図も、麓と稜線上の小屋で手に入れることもできる。
過保護すぎず、かと言って沢登りやクライミングほど登山者を限定しすぎない。登山者が自分の責任で考え、自分の責任で行動する冒険体験ができる、希少なフィールドなのだ。