■落石事故の現場に遭遇
針ノ木岳から針ノ木小屋に下山し、休憩の後、午前9時半前に扇沢登山口に向けて下山を開始した。大雪渓の下りは、上り以上に細心の注意が必要である。というのも落石は背後で起こるからである。
11時10分頃、昨晩針ノ木小屋で偶然居合わせた登山者と出会う。彼のすぐそばには数人の登山者が簡易タープを設営していて、その下で負傷して横になっている年配の男性がいた。彼は看護師で落石事故者に遭遇し、応急手当てを施して、負傷した男性から身元状況や緊急連絡先を聞き出したメモを手にしていた。事故現場は電波が入らない場所で、彼は負傷者に付き添っているため、負傷者の身元や状況を警察に通報し、救助要請してほしいということであった。
■通報に走るため筆者がとった行動とは?
まず筆者は正確な位置を通報するため、スマホのGPSアプリで現在地の緯度経度が表示された地形図をスクショした。さらに意識のある負傷者に断り、写真を撮らせてもらった。彼は半身を起こした状態でザックに寄りかかっており、落石が当たったのであろう胸を押さえて痛みをこらえつつも、私が向けたスマホに笑顔を見せてくれた。その場に居合わせた登山者5人と協力し、電波が届くところまで再び下山を開始した。
大沢小屋を過ぎると登山道は登り坂となる。それまで気の焦りからハイペースで下山していたため、登り坂と気温の上昇で体力が一気に奪われ、筆者は他のメンバーに遅れをとる。一足先に電波が入る場所に辿り着いたメンバーが、警察に通報してくれていた。スマホで事故情報を撮影していたのは筆者だけだったので、合流するやいなやそのメンバーらと共に、事故現場の位置情報や身元情報、負傷者の怪我の程度や様子、着ていた服装や持ち物の写メを見ながら説明する。
無事通報を終えて下山していると、筆者らよりも前に事故を目撃したまた別の登山者から、1時間ほど前に通報を受けて登ってきた2名の山岳警備隊と出会う。彼らにも通報と同様の説明をした。彼らは筆者がスクショした位置情報や負傷者の写真や身元情報をスマホの画面越しに撮影して、負傷者の元へ向かった。
■山岳事故を通報する際に重要なこと
警察に何度も聞かれたことがある。それは本人に救助要請の意思があるかどうかだ。意識不明の場合をのぞき、本人の救助要請の意思がないと警察は出動できないとのこと。
今回、警察に通報する際に必要になるだろうと思い、負傷者本人の了解を得て、写真は撮らせてもらったが、直接ご本人に救助要請の意思を確認したわけではなく、その事実以上に答えることはできなかった。筆者がGPSアプリで事故現場を特定したことや負傷者の写真を撮影したことは通報の際とても役立った。今回、警察とのやり取りの中で聞かれたことをまとめてみたので、万が一のためにもぜひ覚えておいてほしい。
後のニュースによると、男性は午後2時頃に県警ヘリで救助され、松本市内の病院に搬送されたようだ。あばら骨を折る重傷であったという。