ついに梅雨明けが宣言された関東甲信越地方、筆者の住む長野県北部でも連日猛暑が続いています。

 長野県内を北へ流れる千曲川(信濃川)水系。その支流、新潟県境に程近い山奥に毎年訪れている渓があります。夏にこそ似合う、濃厚な緑に包まれた渓流です。イワナたちの姿も気になりますが、ブナとミズナラなどが織りなす深い森は、ロッドを振っているだけで心に染み入る深山幽谷の趣を醸し出しています。

■緑濃き山奥の渓へ

涼しげな清流が豊かな森の底を流れていきます

 千曲川が信濃川に名前を変える最北端、長野県北部・栄村の山奥には、いくつもイワナの住む渓があります。例年遅くまで雪に閉ざされる豪雪地帯で、当然雪代も多いです。梅雨明けする頃にはすっかり水量も収まり、森をそっと湿らすような優しい雨が降った後が釣りのチャンスです。

管轄する漁協は、高水漁業協同組合です。
https://nagano-angler-navi.jp/?page_id=2683

 いくつもの堰堤を横目に、狭く曲がりくねった山道を上がります。その先は脇草に覆われた、かろうじて車両が通行できる林道で、ここはe-バイクで進みます。不意にクマに出くわすことを避けるため、手動式のエアーホーン(かなり大音量)を鳴らしながら走っています。さらに、荒れて踏み跡程度になった山道を歩くこと約1時間半。すでに木々は緑濃く、豊かな森の下に滔々と流れる沢は、ひっそりと控えめな流れです。今年も変わらず、美しくも逞しい源流のイワナたちに出会えるでしょうか。

■瞳に森を映す天然イワナ

頭の大きな泣き尺サイズのイワナ。まだまだ大きくなりそうです

 流れに腕を浸けると予想以上に水はひんやりとしていました。標高約1,230m地点での正午の水温は13.6℃、気温は20℃でした。道中は流石に暑さを感じていましたが、ここまで来ると渓に沿って吹く風は涼しく、一服の清涼剤のようです。ゲイタースタイルのウェットウェーディングでのフライフィッシング。足元から伝わる水の心地よさに夏の到来を感じます。

 周囲の山肌にしっかりと染み込んだ雨のせいでしょうか。湿り気を帯びた森には芳醇な香りが漂っていて芳しく、何度も大きく息を吸い込んでしまいました。

 釣りを開始した最初のポイント、浮かべたドライフライ(水面付近で浮く毛鉤)にさっそくイワナが浮上してきました。ですが、わずかにかかってしまったドラグ(水野流れにそぐわない不自然な動き)で偽物だと見抜かれたようで、魚はUターン……。山奥とはいえ、野生の生物は用心深いですね。

 釣り上がるにつれ、小気味よく水面を割る美しいイワナたち。魚体やヒレに表れる特徴の違いから、二つの系統に分かれているような感じですが、本当のところは見た目だけでは判断できず興味深いです。

 退渓は遡った流れに沿って下る予定です。名残惜しいですが、「少し物足りないな」くらいで引き返すことにしました。