あまり知られていないことだが、モンブラン、マッターホルンという2大名山を有する北イタリアのヴァッレ・ダオスタ州には数え切れないほどたくさんの「」がある。

 他国との国境があるヨーロッパ・アルプスの山間の村は、古くから軍事的にも商業的にも重要な拠点であり、防御の目的で堅固な城がいくつも築かれたからだ。中には2世紀初頭に造られた原始的な城もあるというから、このルートが戦略的にいかに重要であったかは推して知るべしである。

 文献に残されている城は、ヴァッレ・ダオスタの比較的大きな渓谷に残るものだけでも72(州の観光局は100と表示)。城訪問は私のイタリア歩きの大きな楽しみの一つとなっているのだが、それは歴史上の人物が実際に暮らしていた城を訪れると、時空を超えて人の息吹を感じることができるからだ。

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 山歩きの合間に偶然訪れたヴェール(イタリア語読みはヴェルレス)という村でも素晴らしい城との出会いがあった。後で文献を調べたらなんと幽霊伝説も残っていて、ますますこの城が気に入った。ヴァッレ・ダオスタの中でも特に有名な中世の城が残るヴェールをご紹介しよう。

■アルプスの昔の暮らしに触れられる骨董市

 州都アオスタから南東へ約30km、ドーラ・バルテア川のほとりにあるヴェールは、古代ローマの皇帝アウグストゥスによって建設されたガリア街道上の重要拠点として栄えてきたという古い歴史を持っている。この村で、春から秋にかけて毎月第一日曜に開かれる骨董市は州内でも有名なイベントらしく、滞在していたB&Bの奥さんに「ぜひ行って!」とオススメされた。付近の住民のみならず、ツーリストにとっても見逃せない骨董市であると聞いて私も興味をそそられ、足を運んでみることにした。

 ヴェールの村に着くと、メインストリートはもちろん、小さな広場や路地に至るまで、びっしりと露天商で埋め尽くされていた。売られている品物は、中古のレコード、手作りのアクセサリーを始め、古い家具や銅製のキッチン用品、かんじき、スキー、果ては牛の首にぶら下げるベルまで、実にバラエティに富んでいる。なかには用途が全く不明な品物もあり、「これは何に使うんですか?」と店主に尋ねると、「ああ、これはこの周辺の村に古くから伝わる雪かきの道具だよ」と教えてくれた。

ヴェールの村一帯で開かれる骨董市「Mercatino di Antiquariato e Usato」は、5〜10月の毎月第一日曜日に開催される
年代物の家具や家庭用品、装飾品など様々な品物が売れらている

 骨董市の品は年季の入った風情のあるものが多く、じっと見ていると思わず触れてみたくなる。磨き込まれた木のスキー板は、一体どんな人が使っていたのだろう。この手作りのゆりかごはいつの時代のもの? ボロボロになった手縫いの革靴、これを履いてアルプスの雪山に登ったんだろうか。現代のハイテク用品からは想像もできないような珍しい山の暮らしの必需品の数々はただ見ているだけでも楽しいが、それが使われていた時代や自然環境に思いを馳せながら眺めると、より一層味わい深い。爽やかな日曜の朝、川のせせらぎをBGMに眺め歩く骨董市は、予想外の楽しいひと時を与えてくれた。

メインストリートは朝からたくさんの人でごった返す
アルプスの村ならではの品々は、見ているだけでも楽しい気分にさせてくれる