■絶滅が危惧されるイリオモテヤマネコ

 現在、西表島に生息しているイリオモテヤマネコの数は推定約100頭。環境省のレッドデータブックには、最高ランクの絶滅危惧種として掲載されている。イリオモテヤマネコの絶滅が危惧される要因はいくつかあるが、最大の脅威は「交通事故」だ。1978年に最初の交通事故が起きてからその件数は右肩上がりで増え続け、2019年には生息数の約10パーセントにあたる9頭ものイリオモテヤマネコが交通事故で命を落とした。まさに危機的状況だ。

 取材・撮影を続ける私たちが最初に野生のヤマネコに出会ったのは、2019年の秋。早朝、地元でヤマネコの保護活動を行う「やまねこパトロール」から連絡をいただき、交通事故死したばかりの子どものヤマネコに対面した。路上に横たわるその姿を見て、「ああ、君は本当にいたんだね……」と思った。

 ヤマネコは夜行性なので、道路に出てくる=交通事故に起きやすい時間帯は夕方から夜間となる。最初の頃は「もしかしたら出てくるかも……」とカメラを構えたりもしていたのだが、こうした事故の一因に「ヤマネコの道路慣れ、人馴れ」があると聞いてからは、むしろできるだけこの時間帯に車を走らせないよう気を配るようになった。そして、わざわざ出没しやすい時間帯に合わせて「やまねこ遭遇ツアー」なるものを開催するガイド業者もいると聞いて、違和感を覚えたりもした。

私たちが最初に出会ったのは、交通事故死したイリオモテヤマネコの子どもだった
交通事故に遭い、「西表野生生物保護センター」で終生飼育されたイリオモテヤマネコの「よん」