■初日のルートは穏やかな瀬が続く上有知湊〜小瀬湊(約7km)
灯台下の川原でパックラフトを膨らまし、フルドライスーツを着て出発。ここで大事なのは、実際には積んでなくても、「この美濃和紙、無事に中川原湊まで届けてみせる!」と思い込めるかが勝負。ロマンや価値ってのは、誰かに設定されるものじゃなく、自分で勝手に作り上げるものなのだ。
快適な流れに乗って最初の橋を越えると、いきなりこの区間最大の瀬である「魚道の瀬」が現れる。大きな魚道(鮎の遡行を助けるために川に設ける工作物)の隣にある瀬だからこう呼ばれているが、川の変化のせいなのか、久しぶりに来たらその魚道は埋められてなくなっていた。最大の瀬といっても流れ自体は素直。流心に乗ってしっかりパドリングすれば問題はない。
この日のゴール地点ある小瀬湊までは、ちょっとした瀬がいくつか出てくる以外は、基本的には穏やかな流れの区間が多い。むしろ気をつけるべきは、瀬よりもテトラポットなどの人工物である。流れが穏やかな場所では船の上に寝そべったり、川の上でコーヒーを飲んだりする。冬の川では、川原でのんびりコーヒーを沸かすには寒いので、あらかじめ保温ボトルに熱々のコーヒーを入れてくることが多い。事前に上有知湊付近のパン工房神田屋で買ってきた、「アルプス」という名の生クリームパンとともにいただいた。この組み合わせが、やたらと美味かった。
小瀬湊が近づくと、最後の最後でまた難所が登場する。なぜかその場所だけやたらと岩が多出していて、水面下に隠れ岩も多い。そのせいで流れも複雑になっており、一度上陸してスカウティング(瀬の下見)し、ベストのコース取りを見定めてから行く必要がある。
やがて1日目のゴールである小瀬湊(関市)に到着した。和紙水運における中継地点でもある小瀬湊付近は、歴史的にも非常に重要な場所であり、なおかつ「小瀬鵜飼(おぜうかい)」が行われるという由緒ある場所だ。
長良川で行われる鵜飼は、この小瀬と、中川原湊付近の「長良川鵜飼」の2箇所のみ。観光色が強く派手な長良川鵜飼に比べ、ここ小瀬の鵜飼は暗闇の中で昔ながらの素朴な鵜飼が間近で見られるとあってファンが多い。宮内庁の御料場として保護され、世襲制で3家の鵜匠がその漁法を守っている。
上陸後、ほとりにある「関観光ホテル」にチェックインし、身軽になって周辺の散策に出かけた。ここからは小瀬流域の歴史と鵜匠文化に触れ、さらに深く「清流長良川と鮎(里川における人と鮎のつながり)」を感じていく旅が始まる。