■まず釣れたのは……。
山奥の狭い沢、開けている場所もあるが、ほとんどは周りや頭上に木々が生い茂っている。枝葉に引っかけないように竿を振るのはなかなかに難しい。
「パシャ!」小気味よく水面が割れた! が、あまりに久しぶりで感覚が鈍っていたのだろう。ただ見とれてしまった。
「いけない! 合わせないと……」せっかくの最初の一匹は、一瞬で流れに消えていった。まるで幻のよう。上流へと遡るとすぐに好ポイントが。一投目でイワナが飛び出してきた。
「次こそは!」今度はしっかりと”合わせる”ことができた。竿を通してグイグイと伝わってくる生命の鼓動にドキドキする。無事に手元に寄せたイワナは、キラキラと輝いている。
■大物は釣れなかったけれど
つたない私の釣りだが、それでも飽きない程度にイワナたちは飛び出してくれた。お昼を食べるのも忘れ、すっかり夢中で釣り続けた。大物は出なかったが、厳しい環境で生まれ育ったイワナたちは筋肉質な魚体、ピンと張ったヒレで惚れ惚れしてしまう。よく見ると、一匹一匹顔が違うのがわかるような気がしてくる。
ずいぶん長い時間釣りをしていたが、地形図で確認すると、実際に進んだ距離はわずかに500mほどだった。以前源流のイワナ釣りにハマっていた頃は、沢登りのときに食料調達として釣っていた。けれど、久々に釣りをしてみると、毛バリに出てくるドキドキ感と魚がかかってからの感触だけでも十分楽しんでいる自分がいた。
雪国の短い夏は、うかうかしているとあっという間に終わってしまう。今度はどこの沢へ行こうか。