山梨県・富士山西麓に広がる青木ヶ原樹海の奥地に位置する大室山は、最高峰で標高1,468mを誇る。西丹沢や静岡県の伊豆にも同名の山が存在するが、本記事で紹介するのは富士の樹海に位置し、富士山に抱きかかえられるように見えることから、「子抱富士」の異名を持つ大室山だ。山頂部は北峰と南峰に分かれており、富士山の大展望が広がるのは南峰(標高1,447m)となっている。
この山の最大の特徴は、一般的な整備された登山道とは異なる樹海歩きにある。視界の開けた稜線歩きとは異なり、溶岩の上に形成された深い森の中を進むルートは、まるで探検のような雰囲気を味わえる。
そして山頂では、富士山を間近に望む圧巻の展望が広がる。大室山は「子抱富士」の“子”にあたる存在であり、目の前にそびえる富士山との独特の位置関係が、この山ならではの特別な体験を生み出している。
■コースの紹介
●登山口へのアクセス
登山口は、富士風穴付近にある駐車スペースを利用する。中央自動車道・河口湖ICから車で約20分とアクセスは良好だが、駐車できる台数は約5台程度と限られているので、朝8時頃までには到着できるよう心がけたい。周囲は一般的な観光地のような賑わいはなく、周辺は静かな森に包まれている。
スタート地点からは林道を少し進み、その先で樹海へと入る。足を踏み入れた瞬間、空気が変わったような感覚で、苔むした地面と溶岩が広がる独特の景観が続く。視界が閉ざされた森の中は、まさに“探検”という言葉がふさわしいエリアだ。
公共交通機関を利用する場合は、河口湖駅から富士急山梨バス「鳴沢・精進湖・本栖湖方面」行き、または西湖周遊バスに乗車し、「富岳風穴」バス停下車。そこから登山口までは徒歩となる。バス本数は季節・曜日によって異なるため、事前に富士急バスの時刻表を確認すること。河口湖駅からのタクシーを利用する場合の料金は、目安として3,000〜4,000円程度。アクセスの利便性から車利用が現実的だ。
■子抱富士の頂、大室山へ! 溶岩と苔が織りなす樹海の世界
●富士風穴から樹海へ。静寂に包まれる“探検”の始まり
スタートは富士風穴付近。駐車スペースから林道をわずかに進むと、やがて樹海へと続く登山道に入る。入口こそわかりやすいが、一歩足を踏み入れた瞬間に空気が変わるのを感じるはずだ。
視界は一気に閉ざされ、頭上は樹木に覆われる。足元には苔むした溶岩が広がり、独特の踏み心地が続く。一見やわらかそうに見えるが、溶岩の凹凸は思いのほか足首への負担が大きいため、ハイカットのトレッキングシューズで行くこと。風はほとんど通らず、音も吸い込まれるように消えていく。鳥の声や木々の軋む音がやけに大きく感じられ、日常とは切り離された空間に入り込んだ感覚になる。
それでも不思議と不安だけでなく、“この先に何があるのか”という探検心が刺激されるのが、このエリアの魅力だ。
●樹海奥部から大室山山頂へ。“子抱富士”の核心に迫る
樹海の奥へ進むにつれて傾斜が徐々に増し、足元の溶岩も荒々しさを帯びてくる。ルートは緩やかなアップダウンを繰り返しながら、大室山の山体へと続いていく。
この山は整備された登山道というより、“自然のままの道”に近い。似たような景色が続くため道迷いのリスクがある点は低山であっても油断できない。道はしっかりと踏み跡があるものの、似たような景色が続くためGPSや地図アプリ(YAMAPやヤマレコなど、オフラインでも使用可能なもの)をこまめに確認しながら進むのが基本だ。樹海内は電波が不安定になることもあるので、出発前にルートをダウンロードしておこう。
溶岩の凹凸を越え、苔の間を縫うように進む場面も多く、歩きごたえは十分である。ときおり現れる小さな開けた場所では、木々の隙間から富士山の一部が垣間見え、確実に高度を上げていることを実感させてくれる。
やがて傾斜が緩み、視界がわずかに開けると大室山の山頂に到着する。標高は約1,447m。ここは“子抱富士”の「子」にあたるピークであり、目の前には圧倒的な存在感の富士山がそびえ立つ。
巨大な富士の裾野に抱かれるような位置関係がはっきりとわかる。樹海の静寂を抜けてきたからこそ、視界の開けた山頂で出会う大展望には、より鮮烈なインパクトを感じられる。