◼️ ネパールでの生活に興味を抱き始める

 とはいえ、せっかく誘われたので気になって調べてみると、どうもアメリカのロングトレイルとは様子が違うらしい。GHTの多くは、地元の人たちが日々使っている生活道。途中に村があって、人がいて、暮らしがある。歩いていると、自然だけじゃなく人の気配があちこちに感じられる。ネパールの人々にとっては、標高3,000mを超える山中も生活圏なのだ。それが、なんだかやけに気になった。

 ネパールといえば、エベレストだとか、未踏峰だとか、そういう“高所登山” のイメージが強かった。日本で紹介されるのも、そういった山の話ばかり。でも、GHTのことを知れば知るほど、「ヒマラヤは登るだけの山脈ではないぞ」と思えてきた。ネパールでも自分が嗜好するロング・ディスタンス・ハイキングができる。そう思い始めたら、気持ちが一気に前に進んだ。

 できない理由ばかり挙げていたら、なにも始まらない。長年勤めた会社を辞める時だって、なんの当てもなかったのだ。でも、どうすればできるかを考えて一歩を踏み出した。GHTの踏査に必要な休みと資金だって、それを作るための方法を考えて実行するのみ。そう腹をくくって、友人に「やりましょう」と返事をした。

後ろに見える町は、エベレスト地域の玄関口として知られるナムチェバザール

 そして2014年の秋、GHT projectの第1回目の踏査に出発。以降、コロナの時期を除いて毎年、1か月間前後GHTを歩くようになった。気づけば、2024年で7回目の踏査を終えた。

 毎年ネパールに通ううち、僕はネパールを旅することだけではなく、ネパールで生活することを思い描くようになった。もちろん、最初から移住を考えていたわけではなく、あくまで “毎年踏査に行く” というプロジェクトのつもりだった。でも、何度も通ううちに、ある種の飽和感が出てきた。たしかに毎回、新しい体験はある。発見もある。出会いもある。けれど、それは広がりの話であって、深まりではない気がしていた。

 年1回通うだけでは、これ以上ネパールへの理解を深めることは、難しいのではないか……。そんな気持ちが、徐々におぼろげながら芽生え始めた。もっと深く理解したい。そう強く自覚するようになったのは、2019年から2020年にかけてだったと思う。