■4代目としてのプロダクトを生み出したい

4代目の哲平さんが生み出した「バーグ」。こちらはブラウンキャンバスマイカルタをハンドルに採用したモデル

 その後に哲平さんの父親の裕之氏が継ぎ、「トラウト&バード」や「シマフクロウ」といった現在でも人気の定番ナイフを生み出してきたモキナイフ。

 ですが裕之氏は病気療養のため引退。哲平さんは2008年に思いがけず代表に就任します。

 「代表になった当時は定番モデルのクオリティを維持し、職人さんたちを守るので精一杯でした。数年が経って少し落ち着いたとき『未来の定番になるような自分のプロダクトを開発したい』という思いが芽生えたんです」(櫻井代表)

 そのとき櫻井さんの頭に浮かんだのが、折りたたみ機構を持たない大型のシースナイフのアイデアでした。

薪割りのバトニングで真価を発揮する「バーグ」

 「モキナイフは20年にわたって、戦闘機パイロットのためのサバイバルツールにも採用されているファルクニーベン(スウェーデン)など数々の海外ブランドのOEMで経験を積んでいたので、納得のいくシースナイフを作るためのノウハウがあったんです」(櫻井代表)

 こうして2020年12月に生まれたのが、ブッシュクラフト向けにデザインされた「バーグ」です。

 全長230mm、刃長110mm、刃厚4.5mmという、ブッシュクラフトに最適なちょうどいいサイズ感。大型ですが重すぎず、特徴的なグリップはカスタムメイドのように心地よく手に馴染みます。

 「バーグ」の大きな特徴はデザインだけでなく、ブレードに採用された「LAM/VG7」という耳慣れない鋼材にもあります。

 「VG7は福井の鋼材メーカー・武生特殊鋼材がかつて開発したステンレススチール鋼。切れ味や耐摩耗性に優れていたものの、加工性の問題で普及しませんでした。ですがバーグの開発中に、幻とも呼ばれたVG7の復刻の目処が立ったと聞き採用を決めたんです」

3層構造のため、刃先には鋼材の境界線が刃紋のように浮かぶ

 そして“LAM”とは、複数の鋼材を挟み込むラミネート(laminate)鋼を意味します。バーグでは硬いVG7の両側を、より耐食性に優れる420J2ステンレススチールで挟み込むことで、切れ味と耐久性の高さを両立させています。

 とくにハマグリのような断面に研ぎ上げられたコンベックスグラインドバージョンは、コロナ禍で人気となった焚火やブッシュクラフトの愛好家から“待望の純日本製ブッシュクラフトナイフ”として大きな注目を集めることに。

 “いいものを作る”というモキナイフの伝統を受け継ぐバーグですが、発売以来品薄が続くほどの人気ぶり。

モキナイフからクルマで5分ほどの距離にある岐阜関刃物会館では、約2000点の刃物を展示。お得な価格で購入も可能

 「バーグはモキナイフが守り抜いてきた価値を反映しようと作ったナイフです。1か月に50本ほどしか製造できないのでご迷惑をかけていますが、“刃物の街・関”のファクトリーナイフ工房の意地を世界に発信できたと自負しているんです」(櫻井代表)

 2022年には、全長185mmとややコンパクトな「バーグ プロトレイル」、2024年にはより大型の全長280mm「バーグ ロブソン」といったバーグのバリエーションも登場。早くもモキナイフの新定番として支持を集めています。

モキナイフ
岐阜県関市東仙房15番地
https://www.moki.co.jp/